082.細工
何度目かの出陣の折、氷景から受け取った笛が壊れてしまった。
実際にそれを吹く事は少なく、あまり問題がないようにも思えた。
しかし、彼はそう思わなかったようだ。
「じゃあ、新しいのを作っとく」
「そうね…お願いするわ―――って、あの笛は手作りなの?」
「?手で作らずになにで作るんだ?」
それはそうだ、と頷きそうになる。
彼女が言いたいのはそう言う事ではないのだ。
「あなたの手作りだったの?」
「あぁ…言ってなかったか?里の忍は、それぞれ自分にしか聞こえない音の笛を、自分で作るんだ。それが主との連絡手段になるからな」
「へぇ…器用なのね」
「不器用で忍として生き残ってる奴なんてそういないな」
そう言って氷景が苦笑する。
確かに不器用な忍など想像もつかない。
越後のかすがは上杉の事になると少し行き過ぎるところがあるけれど、それでも決して不器用とは言えないだろう。
「さて…今度は何の花を彫るかな」
「花?」
「あぁ、気付かなかったか?側面に花の模様を刻んであるんだ」
「そうだったの?ごめんなさい、気付いていなかったわ。…本当に器用なのね。前の笛には何の花が刻まれていたの?」
「百合…だったか、確か。次は桜でもいいかな」
「理由は?」
「…さぁな。筆頭あたりならわかるんじゃないか?じゃあ、二・三日中に作ってくるから」
そう言って片手をあげた彼は、一瞬のうちにその場から消えた。
気配も感じ取れなくなった彼に、やれやれと肩を竦める。
「政宗様に聞いてみようかしら」
少しだけ、彼の考えに興味がわいた。
【 082.細工 】 霞桜 氷景 / 廻れ、