080.運命
運命とは、なんて馬鹿らしい言葉だろうと思っていた。
「運命」と言う言葉で言い訳をして、全てを諦める人を沢山見てきた。
もちろん、諦めると言う部分を責めるつもりはない。
全てを諦めているのは他でもない私自身だったから。
けれど、運命と言う言葉に甘え、言い訳をして自らの行動を見失った人間は酷く滑稽だった。
「私たちが出会ったのは運命かしら?」
ふと、その答えを聞きたいと思った。
彼はどう考えているのだろうか。
白いシーツの上に寝転がり、窓際に座る彼を見つめる。
彼は少し驚いたように目を見開き、私に視線を返した。
「…運命?意外だな…君がその言葉を信じているとは思わなかった」
「いいえ、寧ろ馬鹿らしいと思っているわ」
「…そうか」
彼は、何故、とは問わない。
彼にとっては理由は必要ないのか、もしくはわかりきってしまうのだろう。
「運命であるはずがない。私が君を見つけたのは必然だし、君を得たのは行動の結果だ」
全てが決められた事であるはずがない。
彼は、迷いなくそう答えた。
なるほど、彼の考えはそうなのか。
どこか新鮮で、けれどもしかすると、頭の片隅で理解していた答えだった。
彼は何かに定められた道を歩く人ではなく、定める側の人だから。
「愚問…だったわね」
「偶にはこう言う無意味な会話も悪くはないよ」
有益な会話こそ彼の求めるものだろうけれど、偶に戯れるように意味を持たない謎かけを投げるのもまた、彼だから。
今日はそう言う気分だったのだろう。
「私は…ある意味、あなたとの出会いは運命かもしれないと思っていたわ」
「へぇ」
「あなたと言う存在が定めた運命だったのかもしれないわね」
クスリと笑えば、彼はどこか満足げに目を細める。
こんな言葉遊びを出来る場所は、私たち二人だけの空間以外にはありえない。
他者の存在しない場所だからこそ、私たちはどこまでも自由だった。
【 080.運命 】 藍染 惣右介 / 逃げ水