078.足跡
「…何だ、これ」
通路の床の塗装がはがれているのは知っていた。
今日、それを塗りなおすと言う事も知っていた。
だが…新しいペンキの上に小さな動物の足跡がつくなんて事は、聞いていない。
ローは点々と続く可愛らしい肉球の跡を見て、深々と溜め息を吐き出した。
「おい」
自室に戻ると、窓際の籠の中ですやすやと眠る黒猫を見つける。
迷わず近付き、ぐいと首根っこを掴んで持ち上げた。
それでも数秒は起きなかった彼女は、やがてぼんやりとその目を開く。
「なにぃ…?」
さっきねむったばっかりなのに。
たどたどしい言葉は、まるで子供を相手にしているような錯覚を起こさせる。
流されてどうする、と自分を叱咤し、目線を合わせるように彼女を持ち上げた。
「廊下のアレは何だ」
「…あれ?」
「足跡だ」
「あー…みんながつけようって。なんかね、なごむんだって」
よほど眠いのか、彼女の瞼は今にも閉じてしまいそうだ。
「なごむ…和む?」
あぁ、確かに。
思わずそう納得した。
あの足跡は確かに和む。
この船が海賊船でなければ、何の問題もなかっただろう。
ぶら下げられたまま眠ってしまいそうな彼女を抱きなおし、自室を出る。
安定した寝床を得た彼女は、満足げにゴロゴロと喉を鳴らした。
「そういえばねー。きっちんのところにべぽのあしあともあるよ」
それだけを伝えると、彼女は落ちた。
すとんと、眠りの世界に。
「…ちょっと待て」
猫は可愛いし和むし、まぁ足跡の大きさも小さいので納得しよう。
だが、熊はでかい。
少なくとも肉球は彼女の5倍はあるだろう。
「あいつらは…」
幼稚園じゃねぇんだぞ、と呟きつつ、キッチンへと向かった。
「あ、キャプテン!!すごい力作!!」
「どうよこれ!?すごくね?」
「キッチンが賑やかになったなぁ」
「…塗りなおしだ、馬鹿共」
【 078.足跡 】 トラファルガー・ロー / Black Cat