077.雨音

「雨…」

ふと、窓の外から聞こえた雨音に顔を上げ、そう呟く。
そう言えば、今朝いつものように登校していった綱吉は、傘を持っていなかった気がする。
中学生にもなって置き傘などしているとは思えない。
そろそろ下校時間に差し掛かる時間帯、彼は何を思っているのだろうか。

「…暇だしね」

誰に言うわけでもなく呟き、読んでいた本を置いた。
普段なら雨の時には出掛けないけれど、今日は少し違う気分だったのだろう。
手早く外出の用意をして、部屋を後にする。

「雨が降ってきたみたいだから綱吉を迎えに行ってくるね」
「あら、ありがとう。そうね…この雨だとかなり濡れちゃうわね」

リビングの母に声をかけ、家を出発した。

そう言えばこんな風に雨の中を歩くのは久し振りかも。
ふと、差した傘越しに曇り空を見上げ、そんな事を考える。
このところ晴れ続きだったから、そもそも雨が久しいのだと思い出す。
そうして雨の中を歩く事十数分。
学校帰りの生徒が多くなってきた頃、漸く並盛中学校に到着した。
雨が上がるのを待っているのか、下校時間だと言うのに門を出てくる生徒が少ない。
いち早く家に帰ってくる性格でもないので、綱吉が出てくるまでは恐らくもう少しかかるだろう。

「…あれ?」

傘のせいで、と言うよりは注意力が散漫になっていたせいで気付かなかったのだろう。
いつの間にかすぐ傍に立っていた綱吉が「姉さん?」不思議そうに首を傾げた。
元気の良い髪がしんなりと濡れている。
それに気付き、持ってきた彼の傘をその頭上で差し、手渡した。

「傘を忘れていったでしょう?」
「あ、うん。持ってきてくれたんだ?」
「久し振りに雨の中を歩くのも悪くないかと思って。雨が止むのを待とうと思わなかったのね」
「…早く帰りたかったし。それに、止むのを待っても無駄な気がしたから」
「あら、さすがね。今日の夜まで降り続けるみたいよ、この雨」

リビングでついていたテレビからの情報を告げれば、彼は納得したように笑う。
そんな彼を見ながら、「帰ろうか」と言った。

「雨の音って、落ち着くわね」
「雨の日は嫌いじゃなかったっけ?」
「濡れるのはあまり好きじゃないけれど、雨音を聞くのは好きよ」
「そっか。ありがとう、迎えに来てくれて」
「可愛い弟のためならたとえ火の中水の中、ってね。雨ってところが格好つかないけれど」
「…弟、か」
「綱吉?」
「ううん、何でも」

【 077.雨音 】  沢田 綱吉 / 空色トパーズ

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10.07.30