075.迷路
遊園地の中の広いスペースに作られた巨大迷路。
テレビでCMするだけの事はあり、中々大掛かりな設備だ。
偶然近くまで出掛けてきた彼女の目に、そのチラシがとまったのがきっかけ。
ねぇ、と蔵馬を誘い、いざ遊園地の中へ。
「へぇ…大きいのね」
「東西南北にそれぞれ500メートルって書いてあるな」
「最短記録は1時間みたいよ。最長記録は…現在も記録更新中ね」
あらあら、と苦笑する。
どうやら、未だ出ることの出来ない人が延々と記録を伸ばしているらしい。
「あら、お二人は恋人同士ですか?」
不意に、巨大迷路の看板を掲げていた呼び込みのスタッフが二人に声をかけてきた。
そうだけど、と迷いなく答えた蔵馬に、その娘はにっこりと微笑んだ。
「では、こちらからどうぞ!カップル専用入り口です!」
「カップル専用?」
「はい!違う入り口から入って中で出会う!ロマンチックでしょう?」
にこにこと営業スマイルを浮かべる看板娘の言葉に、彼女が「ロマンチック…?迷路の中が?」と呟くのが聞こえた。
看板を掲げる彼女には聞こえない程度の音量。
「まぁ、いっか。入ってみましょう、蔵馬」
「あぁ、そうだね―――無駄だと思うけど」
「無駄?」
「何でもないよ。じゃあ、また後で」
そう言って笑顔を残し、蔵馬が先に行く。
何が無駄なのか…と思いつつも、促されるままにもう一つの入り口から迷路の中へと入っていった。
彼の言葉の意味は、それから数分後に明らかになる。
「あの最短記録って破られるかしら」
「さぁ?」
「そうよね。覚えにくい意地悪な道だったし」
「あの迷路で10分以内に再会するのは俺たちくらいしか出来ないと思うよ」
「…まぁ、ある意味ではずるしていると言うか、何と言うか…」
「からくりを知って、真似できるならすればいいんだよ」
「無理に決まってるでしょう。人間の嗅覚なんて高が知れているんだから」
「そう言えば、あとのカップルの男がやけにやる気になってたけど…無理だろうな」
「あぁ、彼女に格好良く迎えに行く!って宣言していた彼ね…無理でしょうね。気の毒だけど」
「人の不幸を笑うつもりはないけど…うん。気の毒としか言いようがないかな」
「…笑う気がないと言いながら顔が笑ってるわよ、蔵馬」
【 075.迷路 】 南野 秀一 / 悠久に馳せる想い