074.拒絶
翼の部屋に面したベランダのカーテンが閉じられ続けて、今日で三日。
今回は粘るなぁ、と思いつつ、カーテン越しに動く人影に見るともなく視線を向ける。
部屋の換気はもうひとつの窓でしているらしく、時折パステルカラーの優しいカーテンが揺らめく。
不意に、カーテンの向こうの影がピタリと動きを止めた。
影の形からして、こちらを向いているか向こうを向いているか…とにかく、正面か背面かのどちらかだろう。
数秒だったか、十数秒だったか。
影はじっと、動きを止めていた。
やがて、その影が動きを見せる。
カーテンのあわせから指が生え、手が伸びて…少しだけ、それが開かれた。
窺うようにそろりと覗いた目とばっちり視線が絡む。
「!!」
まるで小動物のような俊敏な動きでカーテンの向こうへと消える影。
窓際からも離れてしまったのか、影すら映らなくなった。
そんな彼女の部屋を見て、翼はクスクスと笑う。
あの一瞬で気付いてしまった―――彼女が、タイミングを失っているのだと言う事に。
「…仕方ないね。今回は俺が折れてあげるよ」
どちらが悪かったわけでもない。
どちらも悪くて、どちらも子供だった。
だから、引くに引けない子供染みた喧嘩を三日間も続けてしまったのだ。
きっかけを作るのは自分からでもいいか。
そう思えたのは、彼女の目を見たから。
何かに期待する子供のような目が、翼を映すと同時に驚きに変化した。
けれど、その目には驚き以外にも、喜びのような感情が表れていたと思う。
あの一瞬でそれだけ感情を変化させる彼女に、ある意味感心してしまいそうだ。
とりあえず、翼お断りとばかりに閉ざされた天岩戸ではなく…正直に玄関から尋ねる事にしよう。
机の上に置きっぱなしだった携帯をジーンズのポケットに押し込み、自室を後にした。
【 074.拒絶 】 椎名 翼 / 夢追いのガーネット