073.左眼
夜、ふと意識が浮上する感覚を受け、瞼を開く。
薄暗さに慣れるまでもなく視界に入り込んだ寝顔に、どきりと心臓が動いた。
どちらかと言うと驚きの反応のそれを落ち着かせ、呼吸を正す。
お互い眠っていて、自分だけがふと目を覚ましたのだから、彼が眠っているのは当然だ。
けれど…こんな風に、眠る彼の姿を見たのは、久し振りかもしれない。
普段は眼帯の裏に隠れている右目と、精悍な左目は緩やかに閉じられている。
何となく、そのまま眠る気になれなくて、気付かれない程度に彼の顔を見つめてみた。
気配に敏感な人だから、もしかすると起きてしまうかもしれないと思いながら、どこかそれでもいいと思っている自分。
穏やかな寝息にあわせて緩やかに上下する身体。
彼は生きている―――その事実が、彼女を安心させる。
見つめていた彼の顔から視線を外し、くすり、と笑った。
「…眠れないのか?」
聞こえた声に動きを止めた。
そろりと彼の顔を見れば、いつの間にか開かれた左目が彼女を見下ろしている。
少しかすれた声は、彼が眠っていたことを証明しているようだった。
「…起こしてしまいましたか?」
「あれだけ見つめられれば、な」
苦笑に近い笑みを浮かべた彼の手が彼女の背中を引き寄せる。
距離がゼロになって、肌越しにその心音を感じた。
「明日は早いんだろ?」
「ん、と…はい」
「なら、眠れなくても目を閉じてろ」
息がかかる距離の彼の顔を見れば、優しい表情で見つめてくれる左目と視線が絡む。
頬に熱が集まるのを感じて思わず俯けば、肌越しに彼が笑うのを感じた。
もう、と言葉の変わりに鍛えられた二の腕を抓む。
「私はいいから寝てくださいっ」
「わかったわかった」
ぽんぽんと背中を撫でるなんて、まるで子供みたいだと思う。
けれどそんな彼の手に安心させられてしまうのも事実で。
誘われるままに瞼を下ろし、やがて眠りの世界へと落ちていった。
【 073.左眼 】 伊達 政宗 / 廻れ、