071.復讐
息子を返せ!!!
男の叫びが耳を離れない。
田畑を耕す事に慣れた手は、剣を握るには不向きだった。
型も何もなく、震える切っ先では切れるものも切れない。
それでも、剣を握らずにいられなかったと言う事実が哀しい。
小太刀に付着した血を拭い、小さく息を吐き出した。
「氷景」
「は!」
「あとは頼んでいい?」
何をと言わずとも、彼は理解した。
スッと頭を垂れた氷景は、そのまま倒れていた男を肩へと担ぐ。
やむを得ず怪我を負わせたけれど、命に別状はないはずだ。
「…甘いのはわかってるから、その視線はやめて」
無言の眼差しにそう告げれば、彼は何も言わずにその場から消えた。
彼の気配が遠ざかるのを感じながら、また一つ、溜め息を零す。
犠牲なく全てを終えることは出来ない。
わかっているけれど…誰かの命を奪うという事は、誰かにとって大切な人を奪うという事。
仕方ないで済ませるつもりはない。
けれど、目指すものがあるから…謝るわけには行かなかった。
「あいつも知っていたはずだ。テメェの息子の覚悟くらいは、な」
「…政宗様」
「刀を持てば誰かの敵になる。斬れば斬られる。―――そう言う、世界だ」
政宗様の言う事は正しい。
それでも、復讐者を生み出してしまった事が苦しかった。
「終わらせましょう。乱世なんて…悲しみしか生み出さない」
「あぁ…当然だ」
差し出された手を取って、歩き出す。
朝はまだ遠い。
【 071.復讐 】 伊達 政宗 / 廻れ、