070.刹那
「お前は刹那主義かと思ってたが…意外と現実的な未来志向だな」
視線を感じるなと思って顔を上げると、ローさんがそんな事を呟いた。
刹那主義?と首を傾げれば、ローさんの近くにあった辞書を投げられる。
自分で調べろという事らしい。
辞書を手にとって「刹那主義」を調べてみる。
「“過去や将来を考えず、ただこの瞬間を充実すれば足りるとする考え方”…」
書かれているままを読み上げて、考えてみる。
要するに。
「その場限りの楽天家?…失礼な!」
「だから違うって納得したって言ってるだろ」
「一度はそう思われた事が心外!」
そう言って僅かに唇を尖らせれば、ローさんは楽しげに笑った。
「私は未来に繋がらない今なんて要らない」
どんなに楽しくても、未来がないなら意味がない。
今の一瞬を楽しむ事、今を生きる事は大切だけれど、それだけでは駄目だ。
これから進む先、後悔したくないと思うからこそ、人は真剣に今を生きる事ができる。
「でも…こう考えるようになったのは、ローさんと会ったからかも」
思い出すようにポツリと呟けば、ローさんの目が少しだけ驚いた表情を見せる。
あ、珍しい表情だ、と思いつつ、続けた。
「捕まっていた時には、今も未来も要らないって思った事もある。こんな日がずっと続くなら、いっそ…って。でも…ローさん達と出会ったから。今がすごく楽しいから…私は、未来が欲しい」
過去だけでいいと思って過ごした日々。
未来を望めるようにしてくれたのは、この人達に他ならない。
この瞬間だけでいいなんて思えない。
この瞬間が続く未来が欲しい。
全部、彼らのお蔭。
「私は刹那主義にはなれないよ。欲深く生きるの」
海賊らしくね、と笑う。
きっと、この答えはローさんを満足させたんだろう。
だって、彼の表情は私が大好きな…優しくて、穏やかな笑みだったから。
【 070.刹那 】 トラファルガー・ロー / Black Cat