068.失踪
「ティルさん見なかった!?」
ばたばたと走る足音の後、バンッと勢いよく扉が開いた。
振り向いたそこには息を切らせる城主、リオウの姿。
「さぁ…今朝から見てないな」
そう答えたビクトールに、リオウはがくりと肩を落とす。
数日前、遠路遥々ティルを迎えに行ったリオウ。
それはもう、足繁くと表現するに相応しい頻度だ。
お蔭で彼無しに事が進まないものは必然的に一時停止。
ティルが城に定住する事を誰よりも望んでいるのは、恐らくシュウだろう。
「もしかしてまた帰っちゃった!?あの人なんであんなに気紛れなんだろう!!」
悲鳴にも似た声を聞いた人々は、それならば放っておけば…と思う。
しかしながら、彼がティルに懐いている事は知っているし、ティルが誰よりも優れた人材である事は最早否定できない。
役に立たない人間だったならば、シュウが早々にリオウを止めていただろう。
「まぁ、ティルだからな」
と語るのは昔、彼と共に戦ったメンバーだ。
その時、依然として扉のところで仁王立ちしていたリオウに、すまない、と声がかかった。
「フリック!」
「ちょっと通してくれるか?」
「あ、うん。それはいいんだけど…ティルさん見てない!?」
リオウの横をすり抜けた彼は、その質問に少し悩む。
そして、いや、と首を振った。
「また逃げられたのか?」
「逃げられてない!!………たぶん」
「…ま、たぶんまだ城内にいるだろうけどな」
事も無げに語られた言葉は、うっかりすると聞き流してしまいそうなほどにあっさりしていた。
そう、と落ち込んでから、ハッと気付く。
顔を上げるリオウに、フリックは小さく笑みを浮かべた。
「コウが中庭でムササビと日光浴を楽しんでいたからな」
「あぁ、それなら確実だな」
かつての大戦中には、偶には別行動も見せていた二人。
お互いに役目があったのだから仕方ない部分だったのだろう。
しかし、再会した彼らが別行動を取っている様子は、全く見ていない。
珍しくコウが一人だと思っていても、次に見た時にはやはりその隣にはティルがいた。
彼女がまだこの城にいるならば、必ずティルもここにいる。
「ありがとう、フリック!!」
リオウが走り出した。
「…昔はあんな失踪癖はなかったよな」
「あぁ。ティルは自分の役目は終わったと思ってるみたいだからな。あまり深く関わりたくないんだろう」
「…ま、トランの英雄がいると自然と期待しちまうからな。出来るだけ人目につかずに、コウとのんびりしてるのもその所為か」
「二人で寛いでる姿にトランの英雄を重ねる人間は少ないからな」
「いっそガキでも作っちまえば確かなんじゃねーの」
「…………」
「お。お兄ちゃんはまだまだ納得できてねーって顔だな」
「…ほっとけ」
【 068.失踪 】 1主&2主 / 水面にたゆたう波紋