067.予兆
―――気になるなら、調べてみれば?
名前だけを告げて不敵な笑みを残し、立ち去った彼女。
何億と言う人間が生きる中、名前だけで自分を探せという彼女に、自意識過剰と言う言葉が浮かんだ。
しかし、それは実際に彼女を探そうとするまでのほんの僅かな間のこと。
名前と共に表示された家名はゾルディック。
まさか、とは思わなかった。
寧ろそれは当然の事と納得する。
手首を落とす勢いの手刀をあの腕で止めて見せたのだ。
クロロの本気をあっさりと止められる人物など、世界広しと言えど、そう多くはない。
況してや、彼女は自らの事を調べろと言った。
つまり、調べればたどり着く人物だと言う事。
「ゾルディックか…意外だな」
何かの間違いだとは思わないけれど、そう思った。
昔、縁あって彼女の父、シルバ=ゾルディックと一戦交えた事がある。
正直、二度目はごめんだと思った相手だ。
そんな人物を父に持つような人間には見えなかった。
調べ上げたからと言って、特別繋がりを持とうと思ったわけではない。
けれど、偶然が二人を引き合わせた。
目的の本を片手にレジへと向かったクロロは、見覚えのある姿を目にする。
「あれは…」
そう、数ヶ月前に調べた彼女だ。
思わぬ再会だな、と思いつつも声をかけず、気付かれない程度に視線を向けるクロロ。
彼女は脇目も振らず本棚の間を歩き、目的の本を手に取った。
先ほどの自分と同じようにその本を手に取る姿を見て、クロロは小さく笑う。
「何となく、気が合いそうだ」
特殊すぎて一部の人間にしか理解されない内容の本。
迷いなくその本が置かれている棚へと歩いた彼女は、偶然それを手に取ったわけではない。
つまり、彼女は内容を理解した上でその本を求めたと言う事。
―――さぁ、気付くか?
クロロは楽しげに口角を持ち上げ、小さすぎる殺気を向ける。
ピリッと彼女のまとう空気が変わったのを見て、彼は笑みを深めた。
【 067.予兆 】 クロロ=ルシルフル / Carpe diem