063.継承
くすっと笑い声を零した彼女に、ツナが手元から視線を上げた。
声の主である彼女は、彼の動きに気付かず、本棚の前で何かを開いている。
赤い表紙のあれは、確か―――
「アルバム?」
「あら、綱吉。仕事は終わったの?」
呟く声に反応した彼女が、穏やかに微笑んでデスクへと近付いてくる。
まだ終わってはいないけれど、もう10分ほどで片付く仕事だ。
彼女との会話よりも優先しなければならないものではなく、仕事を頭の隅に追いやって、近付いてきた彼女に意識を向けた。
「懐かしいと思って。ほら、中学生の頃の綱吉よ」
可愛いわよね、なんて微笑んでいる彼女が開いているページには、中学生の頃の自分が映る写真が4枚。
どれも、いつの間に撮られていたのか…今も一緒にいるメンバーと何やら騒いでいる1シーン。
可愛いなんて褒め言葉じゃないと思うけれど、楽しげな彼女の様子を見てしまえば水をさす事はできず。
苦笑を返すツナから視線を外した彼女は、そっと写真の上を撫でた。
「この頃は、まだボンゴレを継ぐ事を否定していたわね」
「…そう、だったかな?」
「リボーンに聞いたわ。昔は、必死で反抗していたって」
彼女がツナの元に返ってきて、ツナは彼女を守るのは自分だと心に決めた。
守るためには、力が必要だった。
思えば、初めの頃は非日常に足を踏み入れる事を必死に拒んで、逃げていた。
知られていたのかと思うと少し恥ずかしいけれど…喋ったのがリボーンなら、仕方ない。
「あなたがボンゴレを継承するまでに、色々とあったわね」
沢山笑って、沢山傷ついた。
生涯の友を得たし、失いかけた事もある。
本当に、様々な事があった。
「私は、あなたにボンゴレを継いで欲しくなかったのよ?」
「うん。知ってるよ」
「でも…継ぐと言ったあなたの目を見て、無駄なんだってわかったわ」
もう、綱吉は決めてしまっていたものね。
少し寂しげに語った彼女に、申し訳ない思いがこみ上げる。
どれほど心配してくれていたか…知っているからこそ。
「そんな顔をしないで?今を悔やんでいるわけじゃないわ」
「でも、心配ばかりかけてる」
「当然よ。大事な人を心配しなくなる日なんて、来る筈がないでしょう?でも、大丈夫。だって…あなたは前を向いて歩いているでしょう、ボンゴレ10世?」
彼女はそう言って微笑み、ツナの頬に軽いキスを送る。
この程度ではうろたえなくなったけれど、それでも頬は赤くなる。
そんな彼の反応に気を良くしたのか、彼女はクスリと微笑む。
「ボンゴレをどうするのかはあなたの自由。そう急いてものを考える必要はないわ。私は…私たちは、いつでもあなたの味方なんだからね」
「…うん。ありがとう」
【 063.継承 】 沢田 綱吉(+10) / 空色トパーズ