062.喧嘩
もしかすると、とても貴重なシーンを目の当たりにしているのかもしれない。
目を見開く白哉様を見て、私はそんな場違いな事を考えていた。
驚く彼の無防備さと言ったら…隊長としての彼を知る人物が見れば、声に出して驚く事だろう。
「喧…嘩?」
「はい」
「ルキアが?」
「…はい」
私がそう頷けば、白哉様は考え込むように黙った。
そして、顔を上げた彼が何を言うのか―――想像するに難しくない。
「ルキアを」
「白哉様」
あえてその言葉を遮るように、静かに声を上げる。
普段であれば、彼の言動を遮る事などない。
けれど…ルキアが関わってくるのならば、話は別だ。
「子供の喧嘩に大人の介入は不要です」
「相手の事に口を出すつもりはない。ルキア本人に問うだけだ」
「白哉様、それは…」
「貴族としての品位を守る事はルキアの義務だ」
「子供はそうして人と関わり、成長するものでしょう」
彼女が果たして子供と形容できる年齢なのかは難しいところだ。
しかし、まだ成長過程である事は確か。
貴族だからと制限するのは、ルキアの可能性を潰す事に繋がりかねないのだと…どうしても、わかって欲しかった。
「あの子には…自由に育って欲しいと思います」
少なくとも、私のように貴族のしがらみの中で息苦しく生きる事だけは、避けたいと思う。
私にとっては譲れない一線だった。
「………ルキアに怪我は」
「ありませんわ。女子同士の些細な諍いです。手が出るほどではなかったとお聞きしています。既に隊長により諌められていると」
「………此度の事は…私は何も聞いておらぬ」
そう言って視線を逸らし、目を伏せてしまう白哉様。
聞き入れてくれたのだと思うと、嬉しさがこみ上げてきた。
しかし、それを前面に出すような性格ではない。
そっと感情に蓋をして、その場で深く腰を折る。
下がれと言う言葉は貰っていないけれど、今尚自分の行動に落ち込んでいるであろうルキアに、少しでも早くこの事を教えてあげたい。
失礼します、と部屋を去った私を見つめる白哉様の視線には気付かなかった。
「ルキア」
「!は、い…」
「良い姉を持ったと喜ぶがいい」
「…姉様、を?」
「あれが反抗したのは此度が初めての事だ。言いたい事があるならばあれに言え」
「………はい。とても…恵まれていると思っております…」
【 062.喧嘩 】 朽木 白哉 / 睡蓮