061.時計

「綱吉は時計の針を巻き戻したいと思った事はない?」

秒針の動きの悪い時計を開き、中を弄りながら背中で問いかけてくる彼女。
テレビを見ていたツナは、え?と問い返した。

「巻き戻したい…?」
「そう。…私ね、昔の話だけれど…時計って不思議なものだと思っていたわ」

時計に合わせて動く世界。
子供心にはとても不思議だった。

「時計は現在から未来へと秒針を進めていく。それなら、針を巻き戻せば過去に戻るんじゃないかって…本気でそんな事を考えていた事があるのよ」

今となっては笑い話以外の何者でもない。
でも、その時は本当にそう思っていた。

「巻き戻したい何かがあるの?」
「…私も人間だから、ね。一度や二度、後悔した事はあるわ」

そう答える彼女の背中を見つめる。
彼女は今、どんな表情をしているのだろうか。
過去は、決して取り戻す事のできない領域。
だからこそ、人は後になって悔やむのだ。

「…戻れるならって…いつも、そう思ってる」

呟いた声は思いのほか真剣みを帯びていた。
彼女が振り向いたのもその所為だろう。

「無意味な8年間を過ごした。やり直せるなら、やり直したい。今でも、そう思うよ」
「………人が過ごす時間の中に、無意味な事なんて一つもないのよ、綱吉。離れていたからこそ見えたものがあるはず。違う場所を生きた時間…お互いに、必要な時間だったのよ」

彼女は作業の手を止めてツナに向き直る。
膝立ちで彼に近付き、その頬を手の平で包み込み、そして微笑んだ。

「だから、悔やむより…今を喜んで欲しいと思う。私は、今この時がすごく幸せだから」
「…うん。俺も、幸せだよ」
「よし!」

そうして満足げに笑う彼女の手を取り、手の平に口付ける。
照れるようにはにかむ彼女は、綺麗と言うより可愛かった。

「…綱吉、そろそろ休憩は終わりじゃない?リボーンが待ってるわ」
「…もうちょっとだけ。ほら、時計は進んでないし」

彼が指したのは、先ほどまで彼女が直していた時計。
まだ作業が途中だから乾電池を抜いてあるそれが動くはずもなく。
ちらりとそれを横目に見て、彼女は苦笑した。

「怒られない?」
「んー…怒られるだろうなぁ…。一緒に怒られてくれる?」
「もう。仕方ない子ね」

【 061.時計 】  沢田 綱吉 / 空色トパーズ

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10.06.21