059.荒廃

荒れ果てた村。
既に、そこに人の気配はない。
道端に放り出された農具や、戦の痕跡を残す家。
前を歩く政宗様の無言の背中が痛々しい。
仕方なかった―――状況としては、確かにそう言える。
私たちがその一報を受けた時、この村は既に戦に巻き込まれていたのだから。
十数の部下を連れ、飛び出すように城を出て今日で二日。
休みなく馬を走らせてたどり着いた結果が、目の前の状況なのだ。
間に合うはずがなかった。
けれど、感情はそんな言葉では片付けられない。
彼の心中を表すように、握りこまれた拳。
それは、私の位置からでも小刻みに震えているのがわかってしまうほど、強く握り締められている。

政宗様は足元に転がっていた鞠を拾い上げた。
遊びでついた汚れの上に、矢が突き刺さっている。

「政宗様―――」

何も言えない。
人の生活の名残を手に、彼が何を思っているのかなど、考えるまでもない。
手を伸ばす事もできず、彼女は囁くような声で彼の名を呼んだ。
鞠を静かに足元に置いた彼が、くるりと振り向き、歩いてくる。
大きく踏み出した足元は荒く、彼の心中を如実に表している。

「行くぞ」
「…はい」

近付いてきて、すれ違って。
背を向け合う頃になって、彼が一言、そう言った。
頷いて彼の背後に続く。
だが、そのまま進むかと思われた彼は、ピタリと足を止めた。

「人間の腕っつーのは、何でこうも短いんだろうな」

守りたいと思っても、多くを望みすぎれば取り落としてしまう。
そう言った彼の背中が切なく見えて、思わず地面を蹴った。
短い距離から駆け寄った程度では、彼の鍛えられた身体は揺るがない。
抱きつくようにその背に寄り添い、青い外套に額を寄せた。

「それでも…人は、望む事で前に進むものです。望まなければ、願わなければ…何も変えられません」
「あぁ、そうだな」
「一人で抱えないでください。私が…あなたを支えますから…っ」

どうか、と呟く私の声は、振り向いた彼の胸元へと消える。
不謹慎だとは思うけれど、苦しいほどに抱き締められる事で安心する。
その行動が、私と言う存在が政宗様に必要であると教えてくれているから。
今一度、隙間なく私を抱き締めた彼は、そのまま身体を離して歩き出した。
その足取りに荒さはない。
けれど、強さがあった。

「行くぞ。奥州を敵に回すとどうなるか…思い知らせてやる!」
「…はい!」

【 059.荒廃 】  伊達 政宗 / 廻れ、

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10.06.17