057.奇矯

「なんて事を―――!!!」

どこからか、怒鳴り声とも悲鳴とも取れる声が聞こえてきた。
同じ部屋の中にいた蔵馬と視線を合わせ、またか…と心中で呟く。
声はなかったけれど、溜め息が零れ落ちた。

「元気だな」
「ええ、本当に」

なんてのんびりと会話する夫婦の傍らで作業をしていた部下が「そうじゃないだろ!」と声を上げる。
無論、言葉に出す勇気はないので声を上げるのは心の中だけだ。

「今度は何をしたのかしら」
「さぁな。子供の行動は先読みできん」
「見ている分には面白いけれどね」

クスクスと笑った彼女が、とん、とテーブルで書類を揃えた。
部下から集めた地図は着々と進んでいて、アジトを中心に50キロの地形が手元に揃い始めている。
順調ね、と呟いた彼女の聴覚が、近付いてくる足音を捉えた。
ちらりと横目に視線を向ければ、蔵馬もそれを聞いていたらしく、視線を音の方へと向けている。

「父さん母さん!!」

バーン、と扉を吹き飛ばす勢いで―――いや、現実に吹き飛ばして現れたのは子供。
どこにそんな力があるのかと疑いたくなるような庇護欲をそそる子供らしい顔は、きらきらと輝いている。

「父さんからの課題、ちゃんとクリアしたよ!!一番でかいのを捕まえてきた!!」
「そうか。扉を壊すなと何度言えばわかるんだ?」
「ごめんなさい!ねぇ、母さん、見に来て!!」

窘める蔵馬の声などさらりと聞き流し、母の腕を引く彼。
溜め息を吐き出す蔵馬に苦笑しながら、彼女ははいはい、と歩き出す。

「さっきは何を怒られていたの?」
「んー…大きすぎたから強引に入れたら、部屋が壊れた?」
「………反省してる?」
「ごめんなさい」
「まったく…。元気なのはいいけれど、加減も覚えなさいね」
「はーい」

目的地へと向かう途中、注意する事も忘れない。
父親には多少反抗的な部分も見え隠れするけれど、母親にはどこまでも素直だ。
いざと言う時にはきちんと言う事を聞くのだからと、蔵馬も気にしていないらしい。



「ほら見て!すごいでしょ!?」
「……………ええ、すごいわね」

部屋の壊れ方が、とは言わない。
珍しくも唖然とした表情の彼女の眼前には、予想以上の壊れ方をしている部屋。
訓練用施設の一角だから、それなりに強固なつくりをしていたはずなのだが…半壊とは何事だ。
確かに捕まえてきた獲物は十分すぎるもので、褒めるに値する。
その興奮のままに破壊されたらしい建物を前に彼女は、どう伝えるべきか、と頭を悩ませた。
まったく、子育ては驚きの連続だ。

【 057.奇矯 】  ジュニア / 悠久に馳せる想い

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10.06.15