054.主従
「どうしたの、グレミオ」
じっと彼女に視線を向けているグレミオに気付き、そう声をかける。
グレミオは僕の問いかけに小さく笑った。
「いえ…ああしていると、彼女が王族だと言う事がよくわかると思いまして」
「…そう?」
「はい。彼女はとても優しいけれど、人を使う…と言うと聞こえが悪いですね。自らの声で人を動かす事に慣れています」
彼女は、自分の言葉が与える影響を理解している。
グレミオはそう言って、彼女を見つめた。
彼に釣られるように僕も少し遠い位置にいる彼女に視線を向けてみる。
額を床にこすり付けんばかりに腰を折る兵士。
彼女は苦笑を浮かべてはいるけれど、戸惑う様子はない。
声は聞こえないけれど、きっと優しい声でその行動をとめているのだろう。
「坊ちゃんは私が傍にいる事に慣れていますよね?」
「…まぁ、ずっと一緒だからね」
「そう言う意味では、坊ちゃんは彼女に近いと思います。けれど、坊ちゃんも一度は従った身ですから…やはり、彼女とは違いますね」
彼の言葉に確かに、と思った。
生まれが同じ世界だったなら、彼女は王族、自分は…騎士、だろうか。
今でこそ解放軍を率いるリーダーなんて役柄についているけれど、それでも彼女の持って生まれた気品は消えたりはしない。
埋まらない距離があるような気がして、少しもどかしかった。
「でも…彼女の騎士なら…喜んでやるだろうね」
そう、小さく苦笑する。
他の誰かに彼女を任せるなんて考えられない。
身分の差はあろうとも、守るならば自分がいいと思う。
こんな風にありもしない状況を思い浮かべていられる程度には、平和な一日だった。
【 054.主従 】 1主 / 水面にたゆたう波紋