050.地下
彼女はあまり積極的に前に出てこない。
後方支援が主となる術士であることも理由の一つだろう。
けれど、今日は特別だった。
ふと振り向いた時に、いつも以上に前衛のメンバーとの距離を開けている彼女に気付く。
薄暗い地下の中にぼんやりと浮かぶ松明の火。
その明かりに照らされた彼女の顔が、どこか青白く見えた。
戦闘が終わるのをきっかけに、前をビクトールに任せて後衛のメンバーの横をすり抜ける。
途中確認した彼らにも怪我はないようだ。
そうして、一番後ろにいる彼女の元へと近付く。
「大丈夫?」
「え?あ…ごめんなさい。どうかした?」
声をかければ、今自分に気付いたらしい彼女が取り繕うに微笑む。
けれど、その表情はどこか硬く、誤魔化せないほどに顔色が悪い。
「疲れたなら少し休もうか?」
「…いいえ、大丈夫。休むよりも…早く抜けたいわ」
苦笑を浮かべる彼女は、ピチョン、と言う水音にビクリと肩を震わせた。
その様子を見て、唐突に気付く。
「―――大丈夫だよ」
彼女の手を取り、痛みを与えない程度に強く握る。
この場所は…レナンカンプの地下に似ている。
何がと言うわけではなく、言うならば空気が似ていた。
時折聞こえる音、感じる空気―――それらが欠片を刺激し、忌まわしい記憶を呼び起こしてしまう。
「…ごめんなさい…私…」
「いいんだよ。忘れるべきじゃない」
思い出して、歩みを止めてしまってはいけない。
けれど、彼女は青褪めながらも前へと進んでいた。
それ以上、何を求めると言うのか。
「もうすぐ外だから…太陽を浴びて、少し休もうか。きっと気持ち良いよ」
「…ええ、そうね」
気持ちを紛らわせようとしている事に気付いているのだろう。
彼女は薄く笑みを浮かべる。
しかし、握り締めた彼女の手は、小さく震えていた。
【 050.地下 】 1主 / 水面にたゆたう波紋