048.遺跡
「スペインに来て何が一番良かったって…飛行機に乗らなくてもヨーロッパを行き来できる事よね」
「お蔭でめちゃくちゃ時間がかかったけどね」
「いいじゃない。列車で行く旅も趣があったでしょ」
「身体が強張ったとか文句ばっかりだった人のセリフとは思えないね、まったく…」
「ここまでの長時間の苦労も、この風景を見れば全部忘れちゃうわ。本当に…圧倒されるわね」
デジカメなんて二次元の世界に閉じ込めてしまう事も惜しいと感じるような、圧倒される風景。
けれど、記録として残したいと思うからこそ、無音のシャッターを押していく。
「それにしても…本当に里帰りしなくて良かったの?折角の休みなのに」
「遺跡めぐりがしたいって言ってたでしょ。こんな時じゃなきゃ行けないしね」
「それはそうだけど…」
「うちの両親は里帰りしなくても全然気にしないし、大丈夫だよ」
「そう言ってくれるならありがたいけど…」
やはり、気になってしまう。
口ごもる彼女に、翼はこれ見よがしに溜め息を吐き出した。
「“けど”、何?嬉しくなかった?」
「そんな事ない!」
「じゃあ、笑ってなよ。ほら、撮ってあげる」
「え?ちょっ―――撮っていいって言ってない!!」
「もう遅いよ。ほら、もう一枚いく?」
「駄目!翼も一緒に写るんだから!」
そう言ってデジカメを奪い返した彼女は、近くにいた店の婦人に声をかける。
快く写真撮影を引き受けてくれた婦人を連れて戻ってきた彼女が、翼の腕に自身のそれを絡めた。
普段ではありえないような積極的な彼女に、翼が軽く目を見開く。
「その顔で撮るの?」
「…変な行動取るからでしょ」
「変って…失礼な。OK!Please take!」
彼女の声に答えた婦人がシャッターを押す。
フラッシュなく撮影を終えた婦人が笑顔で彼女にデジカメを返した。
最後に自分の店の宣伝を忘れないあたりもさすが観光地の店主と言えるだろう。
「よし!ここはこれくらいでOKね。次に行きましょう!」
「…はいはい。どこでもお供するよ、お姫様」
「昔“姫さん”って呼ばれてたのは翼の方だったわね。懐かしいわ」
「………今その話題を出す?」
「あはは。ごめんって。ほら、行こう?」
「ったく…」
【 048.遺跡 】 椎名 翼 / 夢追いのガーネット