044.階段
二歩分前を歩いていた一護が、先に階段へと差し掛かる。
平均よりも少し低い身長の所為で、一護と並べば目線は彼の肩。
彼の髪が目線に来るのはとても珍しい事だ。
目の前でゆれる、ふわりとしたオレンジ色の髪。
人工的に生み出されていない、地毛特有の自然な色合い。
オレンジと言う色合い自体は珍しいけれど―――本当に綺麗な色だと思う。
そんな事を考えていると、無意識のうちに手が伸びた。
「ん?」
つん、と彼の髪を引っ張る感覚。
一護はそれに気付かないほど鈍くはない。
振り向こうとした頭に手が触れて、彼は怪訝そうな表情を見せた。
「何やってんだ?」
「んー…綺麗だなーって思ったら、無意識に」
触ってました、と言いながら、手の平で髪の感触を楽しんでみる。
三段分の距離が少し遠いけれど、高さは丁度いい。
思わぬ収穫だ、と考えていると、彼が長い溜め息を吐き出して私の手首を掴む。
「触るな。ガキか、俺は」
「いやいや。子供だとは思ってないよ」
「そーかよ。っつーか、やめろ」
右が駄目なら左とばかりに伸ばした手も掴まれて、両方を肩の高さでホールドされる。
「中々イイ高さね、階段って。嬉しい発見だわ」
「俺はぜんぜん嬉しくねぇけどな」
「…ちょっと痛い」
「あ、悪い」
痛みを感じているかどうかなんて、掴んでいる本人もよくわかっているはず。
それなのに即座に手を離してくれる彼の優しさを感じた。
自由になった手を彼へと伸ばす。
またか、と捕獲に走る彼の手をすり抜け、私の手は彼の髪―――ではなく、首筋へ。
そして、彼の首裏に手を回し、えいやっと引く。
「いつものお返し。…ちょっと遠くて辛いけど」
ぺろっと舌を出して笑って見せれば、今更に私の行動を理解した彼の頬が真っ赤に染まる。
「な、おま…!」
「日本語になってませんよ、一護さん」
「ばっか野郎!!何すんだ!!」
「いやいやいや、そんな生娘みたいな初心な反応…」
「っるせぇ!!お前がんな事してくるからだろうが!!」
「逆切れー。…あれ、初めてだっけ?」
彼の言葉を聞いて思い出す。
そう言えば、私からするのは初めてだったかもしれない。
なるほど…珍しい行動にはこんな反応が返ってくるのか。
にやり、と口角が持ち上がるのを自覚した。
「ごめんね。これからは私も行動するように努めるから」
「努めんな!!」
「とりあえず、階段注意ね」
「もうお前、黙ってろ!!」
【 044.階段 】 黒崎 一護