039.殺意
「相変わらずの人気ね」
教室に迎えに行くと、開口一番彼女はそう言った。
首を傾げれば、彼女はスッと視線を場所に動かす。
俺以外を見て欲しくないんだけど、と呟けば、苦笑が返って来た。
「私が見ているのは女の子よ」
「女子?」
意味がわからないわけではないけれど、あえて惚けながら彼女の頬に触れる。
あぁ、うん。
いくら鈍くても、これだけ視線を感じれば気付くだろうね。
「…熱視線を通り越して殺意を感じるわ」
そう答える彼女も満更ではない様子で手の平に頬を摺り寄せてくる。
そんな可愛い事をすれば、男子が盛り上がるって―――当然、わかってるだろうね、君なら。
「私、そのうち背中から刺されそう」
「大丈夫。そんな事させないよ。さ、帰ろうか」
彼女に傷一つもつけさせやしない。
もちろん、たかが高校生の人間が彼女を傷つける事なんて出来るはずがないけど。
手を差し出せば、当然のように彼女の手が重なる。
それだけで教室の外からは嫉妬の嵐。
彼女が殺意を感じるというのも無理はないね。
「今日は帰りにデートしようか」
「あら、珍しいわね」
「母さんから買い物を頼まれてるんだ。駅前に行こうと思うんだけど」
「どこでもいいわ。あなたと一緒なら」
そう言って微笑む彼女は、とても可愛いと思う。
妖狐の彼女は凛とした美しい容姿だけど、人間の時の彼女には可愛らしいと形容できる部分もある。
それがより顕著に現れる瞬間だろう。
彼女と言う存在に飢える男子学生が惚れ込むのも不思議じゃない。
「譲らないけどね」
「秀一?」
「何でもない。こっちの話だよ」
気付いているだろうけれど、誤魔化すようにその額に口付ける。
黄色やら太い悲鳴が教室に響き渡った。
「遊びすぎよ」
「牽制はしておかないとね」
「しなくても、あなたと争おうなんて勇気のある人はそうそういないわ」
「まぁ、念には念を入れておかないと。クラスが離れた所為でいつでも一緒にいられるわけじゃないから」
「…昔の余裕はどこにいったのかしら…」
「余裕?そんなもの、昔から持ち合わせていないよ。影で消した妖怪の数は数えられないな」
「………まぁ、そんな気はしていたけれど」
【 039.殺意 】 南野 秀一 / 悠久に馳せる想い