038.亡骸
「空に帰る方法にでも悩んでるの?」
そんな声が聞こえたかと思えば、背中からギュッと抱きしめられる。
そんな事は許さないよ、と言う声が聞こえた気がした。
「いいえ。少し…考え事」
「どんな、って聞いても?」
「………向こうの世界の私がどうなったのか、気になっていたの」
少しだけ悩む素振りを見せ、彼女は静かに語りだした。
「どうって?」
「向こうの私は…死んだのか、それともあの身体のままこちらに移動したのか」
「あぁ…なるほどね」
納得する彼。
確かに、精神部分が自分自身だと言う事は、ほかならぬ彼女が一番よくわかっているだろう。
しかし、身体はどうなのか。
同じ身体だったとすれば、既に限界を迎えているだろう。
それならば、違う身体なのか?
指先一つも違和感はなく、違う身体だと考えるのは難しかった。
「あとは、私の存在はどうなったのか、と。これでも一国の王女だから、隠し通せるものではないと思うの。亡骸なく葬儀を執り行う事も容易ではないし…」
「…そうだね」
後ろから彼女を抱きしめている彼に、彼女の表情は見えない。
彼女は今、どんな顔で話しているのだろう。
自分の葬儀の話など、笑顔で出来る話題ではない。
『王女は異国へ渡ったと伝えているのですよ』
不意に、二人の耳に届く第三者の声。
耳と言うよりは、直接頭に届いてきた感じだ。
「セイレーン?」
彼女には覚えのある声だったらしい。
スッと視線を動かした先に、小さく風が巻いていた。
『王は王女が死んだとは思っていません。王は全国民に、王女は療養のために異国へと渡り、幸せに暮らしていると伝えました』
「…私の亡骸は、あちらには残らなかったのね?」
『貴女の身体はあちらの世界と同じ。蝕んでいたものは全てその紋章が喰らいました』
「その紋章って…ソウルイーター?」
風の化身が、まるで肯定するように揺れた。
『小さな王女も、あなたの無事を喜んでいましたよ』
「…ありがとう」
『―――また、私を呼んでください、王女』
その声を最後に、風はふわりと消えた。
「…良かったね、教えてくれて」
「ええ」
「召喚獣たちは、とても君が好きらしい。…妬けるね」
「彼らに妬いてどうするの?」
「うん。必要ないってわかってるんだけどね」
そう言って、彼は掬いあげた髪にそっと口付ける。
擽ったそうに身をよじった彼女は、くすくすと笑った。
「私も彼らを愛しているの。だから…頑張ってね?」
「…言うね、君も」
【 038.亡骸 】 1主 / 水面にたゆたう波紋