037.傀儡
「ねぇ、イルミ。あなたは疑問を抱いた事はない?」
同じベッドの上で寝転がり、片割れの彼女がそう問いかけてくる。
血を分けるだけでなく、共に生まれ共に育った双子。
育てられ方こそ違っていたけれど、それ以外は殆ど同じ。
「何を?」
「選ぶ事すら許されない未来について」
一瞬、わけのわからない事を…と思った。
彼女が何かに悩んでいる事は知っている。
双子と言うのは不思議なもので、どれだけ距離があろうと相手の事がわかるのだ。
もちろん、それは何かに基づいた言葉で説明できる確証を持たない、勘、なのだが。
「悩むのが好きだね」
「決められたレールを歩きたくないの。自分が道を作らない人生なんて、傀儡と同じ」
「…別に、この生き方を嫌だと思った事はない」
世間一般的に言えば暗殺は悪だろう。
でも、それを依頼する者もまた、人間だ。
要するに、価値観が違うだけの話。
「キルアみたいに家出したいとは思わないけれど…私は、自由に生きたいと思うわ」
「うん。だから婚約者をさっさと決めて結婚すればいいんじゃない?」
「それも親に敷かれたレールを歩くのと同じよ」
首を振った彼女が身体を起こして俺を見る。
キルアは彼女によく似たと思う。
意志の強い目が俺を見つめていた。
「親の言うように育って、仕事をして、結婚して。そんな風に生きていたら、操り糸が切れた時にどうすればいいのかわからないわ」
彼女の言っている事はよくわからない。
いや、何となくはわかっている。
けれど、俺にとってそれは理解できる感情じゃなかった。
「まぁ、イルミに無理強いしようってわけじゃないから。双子だけど…私たちは違う人間なんだもの」
「…そうだね」
「でも、もし殺しに疑問を持つようになったら…一度、考えてみて」
今までの事はいい。
これからの事を、ちゃんと考えてみて。
真っ直ぐに俺を見て、そう言う。
うん、と頷けば彼女は小さく微笑んで、再びベッドに寝転がった。
「毛布の上に寝ないで」
「はーい」
コロンと転がった彼女の下から毛布を抜いて、ふわりと彼女の身体にかけてやる。
俺と同じ黒髪がシーツの上に散る様は、感情の乏しい俺でも綺麗だと思った。
自分の髪を綺麗だと思った事はないけど。
「部屋に戻らないの?」
「うん。今日はお泊り気分」
「…まぁ、いいけど」
時々ある事だから、今日が初めてってわけじゃない。
俺の為に開けられているスペースに滑り込んで、彼女と向き合う。
視線に気付いた彼女はふわりと笑った。
ゾルディックなのに、彼女は表情が豊かだ。
それが彼女らしいと思うし、父さんや母さんも直させようとはしない。
感情や表情が豊かだからこそ、彼女は外を求めるんだろう。
「おやすみ、イルミ」
「おやすみ」
傀儡である事を辞めた彼女は、いずれ世界へと飛び出していく。
あと何度、こうして彼女と時間を共有できるだろう。
そんな事を考えながら、欠けた破片を求めるようにそっと片割れを抱き寄せた。
【 037.傀儡 】 イルミ=ゾルディック / Carpe diem