036.鳥籠
虚夜宮の中でもひときわ高い位置にある私室。
大きな窓には硝子はなく、落下を防止する細い金属が何本かはめ込まれている。
そこから外を見れば、まるで鳥籠の中の鳥のようだと思った。
そんな事を考えたところで、自分自身に苦笑する。
たとえ鳥を捕らえるためのものだとしても、私には無用の長物だ。
もう随分昔に、自ら翼を捨てたのだから。
「そうしていると、本当に空に焦がれる鳥のようだよ」
背中からぬくもりに包み込まれる。
白い部屋が色を持つ。
「今更空に焦がれると?」
「少なくとも、私にはそう見えた。それとも懐かしんでいたのかな」
「あら…不思議ね。空を飛んだ事もないのだから、懐かしむ理由はないけれど」
少しだけ棘のある言葉を返せば、惣右介さんが小さく笑って私の頬を撫でた。
「あぁ、そうだったね…君は初めから自由ではなかった。
世界は広いのに、君にとっては狭すぎる」
全てを解き放ち、自由になる事を許されない世界。
今この瞬間すらも、私は自分自身に蓋をする。
決して開く事を許されない、禁断の箱。
「あなたと出会ってからは、狭いと思う事も随分と少なくなったわ」
「そうかい?少しでも君を癒せているなら、それ以上の事はない」
「知りもしない空に焦がれたりしない。けれど…もう、独りは嫌よ」
普段は滅多に口にしない心の内を打ち明ける。
そうして甘えるように身体の全てを預ければ、首元に彼の唇が降りた。
吐息が肩をなぞる感覚にゾクリと肌が震える。
「もちろん―――離しはしないさ」
絡みつく彼の腕こそ鳥籠だと思った。
空の自由さを知る事すら許さぬように強引で、けれど優しい。
迷いも恐れもなく触れる熱に甘えて、扉のない籠を抜け出す気持ちすら持たない私。
狂気染みている―――そんな自嘲も、くすぶった熱を出す吐息の中に消えた。
【 036.鳥籠 】 藍染 惣右介 / 逃げ水