029.廃墟

「知ってる?あの廃ビル潰されるんだって」

翼の部屋でゴロゴロと休日を満喫していた時、ふと彼がそんな事を言い出した。
雑誌から顔を上げて翼を見るが、彼はこちらを見ていない。
どうやら、目を合わせて話すほど真剣なものではないらしい。

「廃ビルって…公園近くのあれ?」
「そう。10年以上も放置しておきながら今更って感じだけどね」

その廃ビルと言うのは、二人が物心ついた頃には捨て去られたビルだった。
2階建てのそれは近くの子供たちの良い遊び場になっている。
大人たちは危ないから入ってはいけないと言うけれど、廃ビルなんて好奇心を擽られるものを前にして子供が言う事を聞くはずもなく。
今でも、昼間の廃ビルからは子供たちの声が聞こえている。
もちろん、二人は小学校高学年あたりから疎遠になった場所だ。

「そっか…取り壊しか…」

多少は大人たちに目線が近付いた今となっては、どれだけ危ない場所なのかがよくわかる。
けれど、いざ取り壊されるとなると、少しばかり寂しい気がした。

「行ってみる?」
「子供の頃みたいに?」
「まぁ、中には入らないけど。って言うか、入れなくなってるんだ」

翼もつい最近前を通る用事があり、その時に知ったのだと言う。
老朽化で危険度の増したそこは、既に封鎖されているらしい。
持ったままだった雑誌を置いて立ち上がり、うーん、と伸びをする。

「行こうか。最後のお別れ、だね」

翼に向かってそう言えば、彼は小さく頷いて立ち上がった。

昔遊んだ空き地や、馴染みだった細い道。
町は少しずつ変化していて、思い出の場所もいくつか姿を消してしまった。
自分たちが大人になる頃には、随分と様変わりしているのだろう。

「変化って寂しいなぁ」

傾き始めた夕日に照らされる町を見つめ、小さく呟いた。

【 029.廃墟 】  椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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10.04.29