027.墓標
「ここにいたのね」
佇む小さな背中を見つけ、そっと声をかける。
リオウは静かに振り向いた。
「
コウさん…」
名前を呼ぶ声は弱い。
それに気付かなかった振りをして、
コウはマフラーを彼の首元に巻いた。
「ここは冷えるわ。風邪を引いては駄目よ」
普段であれば、大丈夫と拒んだだろう。
しかし、彼は何も言わず視線を足元に落とした。
そんな彼を見て、コウは悲しげに瞼を伏せる。
数年前のティルを見ているようだと思った。
「…重いわよね」
戦争が進むにつれて、墓地の墓標が増えて行く。
決して減る事のないそれは、その数だけリオウの肩へと圧し掛かっているだろう。
例えこの戦争が終わったとしても―――ここの人たちはもう帰ってこないのだ。
「苦しいわよね」
「…はい」
「とても辛いでしょう」
「…はい…っ」
俯く彼の足元にぽたりと水滴が落ちた。
コウはそっと彼の背中を抱き寄せた。
ティルのソウルイーターの影響を受け、コウもまた不老の存在となっている。
かろうじて女性と呼べる程度の彼女だが、それよりも幼いリオウの身体は簡単に抱きしめられてしまう。
こんな小さな身体に、と奥歯を噛んだ。
「宿命なんて言葉はなくなってしまえばいい。あの戦争の時…何度思ったかわからないわ」
ティルもまた、
リオウのように背負うものの重さに苦しんでいた。
それを誰よりも近い場所で見てきたからこそ、コウは何もできない自分に歯痒さを感じる。
「やめてしまっていい」
「…本当は、やめてしまいたいんです。コウさんの言葉に甘えてしまいたい。でも…やめられません…!」
今やめてしまえば、これまで進んできた道が意味を持たなくなる。
リオウに従い命を落とした彼らの死が無駄になる。
やめたくてもやめられないのだと、彼はコウの着衣を握った。
「そうね。じゃあ、行ける所まで頑張りましょう。私たちも手伝うから」
「…は、い」
経験者だからこそ、コウは誰よりもリオウに優しい。
逃げ道を用意していながらも、彼がその道を選ばないとわかっている。
けれど、もし彼が逃げる事を選んだとすれば―――彼女は、その選択の全てを受け入れて後押ししてくれるだろう。
それがわかっているからこそ、もう少し頑張ってみようと思う。
「ありがとう、ございます」
姉ではないけれど、姉のような。
そんな存在の彼女に、感謝を伝える。
物言わぬ墓標に見守られ、改めて未来を考えた。
【 027.墓標 】 2主 / 水面にたゆたう波紋