024.病魔

返り血を浴びずに事を終えた彼女は、そっと部屋を後にした。
明日には屋敷の執事が気付くだろう。
顔を上げたところで、廊下で待っていたヒソカと視線が絡む。

「終わったみたいだね」

そう言った彼の手の中で、トランプが生き物のように跳ねる。

「ヒソカが心配するような事は何もないわよ。相手は病に冒された老人なんだから」
「心配してないよ」
「どうかしらね」

そんな軽口を叩きながら、堂々と玄関から闇夜へ身を進める。
月明かりの下を歩き、彼女は今夜の任務の事を考えていた。

「不治の病に冒された自分自身の暗殺依頼―――か」

自分自身を殺す事は出来ないからと、わざわざ大金を積んでゾルディックに依頼してきた富豪の老人。
依頼人とターゲットに同じ人物名が書かれていたのは初めてだったので、思わず見直してしまった。

「後味が悪いみたいだね」
「まぁ…当然よね。暗殺依頼なんて、殆どが悪党よ。もちろん、暗殺業をしている時点で人の事は言えない家だけど」

肩をすくめた彼女は、隣を歩くヒソカを見上げた。

「気持ちはわからなくはないのよ。不治の病で苦しみぬいて死ぬくらいなら…いっそ、自分で終止符を打ちたいわね」
「駄目だよ」
「え?」
「死にたくなったら、僕が殺してあげる。だから、勝手に死んじゃ駄目だよ」

随分と自分勝手な言い分だ。
彼女自身の命だと言うのに、あっさりとその自由を奪う。
少なくともその術を奪われたわけではないけれど、言葉と言う見えない鎖が彼女の行動を制限していた。

「苦しめずに殺してくれるの?」
「痛みもなく一瞬で、一番綺麗に殺してあげる。約束するよ」
「そうね。それなら…私の命をあなたに預けるわ、ヒソカ」
「うん。だから僕の知らないところで死なないでね」
「…病気で突然、って事がない限りは大丈夫だと思うけれど…確約は出来ないわよ?」
「でも駄目★」
「…わがままね、あなた」

【 024.病魔 】  ヒソカ / Carpe diem

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10.04.22