018.異国
村の外に出た事がなかった彼女にとって、踏み出した場所すべてがまるで異国の地のようだった。
文献で知った知識が目の前に溢れている。
見るものすべてがとても新鮮だった。
「周りばかりを見ているとはぐれるぞ」
僅かに笑いを含めながら、ぐいと腕を引いたのはクロロ。
「はぐれたりしないわ。子供じゃないんだから」
「そうか?俺が離れても気付いていなかっただろ?」
そう問いかけるクロロに、彼女はきょとんと瞬きをした。
もしかして、先程までクロロは離れていたのだろうか?
「………離れていたの?」
「いや、ずっと隣にいたな」
どうやら、一杯食わされたようだ。
僅かに口を尖らせれば、彼は楽しげに笑う。
「集中し過ぎだ」
「大丈夫。人にぶつかるほど気を抜いていないわ」
「だが、人の視線には気付いていない」
クロロがその視線を彼女以外へと向けながら告げた。
彼女もそれに釣られるようにして視線を動かす。
だが、そこに何がある訳でもなく、道行く人が歩いていたり話していたりと生活を送っているただ普通の光景があるだけ。
「クロロ?」
「いや、気付いていないなら構わない」
彼女はクロロの言葉に首を傾げた。
その時、ぐっと肩を掴まれ、彼女は驚いたように振り向く。
けれど、その人が近付いてきた事に気付いていなかったわけではない。
殺気がなかったから放置していたという説明が相応しいだろう。
「―――――?」
「え?あの…」
彼女を引きとめたのは異国の女性。
この国から考えれば、彼女が異国の女性なのだが…それはこの際置いておこう。
ふくよかな女性は笑顔で彼女に何かを告げ、そして大きなストールのようなものを首から肩へと巻き付けた。
「お前によく似合いそうだから是非もらってくれと言っている」
「…クロロ、わかるの?」
「得意ではないが、この程度ならな」
彼女の質問にそう答えると、クロロは女性に何かを告げた。
その口からこぼれ出る言葉は彼女には理解できないものだ。
穏やかに対応したクロロが、彼女の手を引いて歩き出す。
振り向いた先では女性が和やかに手を振ってくれていた。
「お礼を言ってないわ」
「代わりに言っておいたから気にするな」
そう答えたクロロが彼女の手を取る。
しっかりと指を絡められ、彼女は彼を見上げた。
「言語がわからないなら尚更、はぐれるわけにはいかないからな」
そう言って微笑んだ彼の表情があまりに優しくて、図らずも頬に熱が集う。
逃げるように視線をそらした彼女に、クロロはクスクスと笑った。
【 018.異国 】 クロロ=ルシルフル / Ice doll