017.雷鳴
曇ってきたなぁ、と思って空を仰ぐ。
何となく雨の匂いも近付いてきているような気がした。
それでも、多少の悪天候で休むような部活ではないと知っているから、作業の続きをする。
ペンを手の上でくるりと回し、続きを記入しようとして。
「!?」
「う、わ!!」
「何だ!?」
例えるならば、ドゴーン、だろうか。
空が光って、それと同時にまるでヒル魔が何かを爆発させたような音がグラウンドどころではなく街中に響く。
初めは、それが何の音なのかわからなかった。
彼女だけではなく、グラウンドで練習をしていた全員が仲間と顔を見合わせている。
「…雷?」
「チッ!中止だ!!さっさと部室に入れ!!」
空を見上げた彼女の耳に、ゴロゴロ、と言う耳に慣れた音が聞こえ、先程の答えが雷鳴であると知った。
ほぼ同じ頃、その事実にたどり着いたヒル魔が、部員らに指示を出す。
雷の鳴る中グラウンドで練習を続けるのは危険以外の何物でもない。
ヒル魔がいつもの数秒早く銃器を取りだした所を見て、状況が切迫しているのだと理解した。
我先にと部室に駆けだす。
開いたままだったノートを閉じ、そこにペンを挟んでグラウンドを見回す。
蜘蛛の子を散らすように部室に走った所為で、練習道具が散乱している。
それは決して悪い事ではないけれど、彼女は雨に打たれると困るものだけでもと、道具を拾いに行った。
頭上では不機嫌な空が文句を呟くようにゴロゴロと雷が聞こえる。
ラダーを拾おうと腰を折って下を向いた所で、背後が白く光った。
間髪容れずにドーンと形容できる音が鳴り響いて、地面が震える。
―――落ちた。
そう理解するのに、時間は必要なかった。
間近で音を聞いた所為なのか、耳がおかしい。
思わず耳を押さえて膝をついた彼女は、後ろから肘のあたりを引っ張られた。
「馬鹿野郎!!死にてーのか!!」
凄まじい剣幕で怒っているのは、部室に引き上げたと思っていたヒル魔だ。
「び、っくりしたー…学校の避雷針に落ちたみたいだね」
「落ちたみたいだね、じゃねーだろうが!」
「いや、だってさ…雨が降ったら困るし」
「死ぬ気か阿呆!!」
馬鹿だの阿呆だのと酷い言い草だ。
彼女はにこりと笑った。
「心配した?」
「~~~~っ!!」
ヒル魔の怒りがゲージを振り切る音が聞こえた気がする。
「…どうしたの、その頬…」
「ヒル魔に思いっきり抓られた…酷くない?」
「…言う事を聞かなかったあなたも悪いと思うけど」
「むー…」
「だってヒル魔くん、あなたの姿がないって気付くとすぐに飛び出して行ったのよ?きっと、心配したんだわ」
「だろうね」
「だろうねって…もう」
「いいのいいの。こっちはいっつも試合のたびにハラハラしてるんだからさ」
【 017.雷鳴 】 蛭魔 妖一 / ペチュニア