014.散歩

「出掛けるのか?」

背中から声をかけられ、振り向く。
着替えの途中から襖の向こうに政宗がいた事を知っていた彼女は、特に驚く様子もなく頷いた。

「はい。虎吉が機嫌を悪くしているらしいので、散歩がてら身体を動かしてきます」
「散歩か…俺も行く」
「え?政宗様はお仕事があるとお聞きしていますけれど…」
「気にするな」

あるんだな、と心の中で納得する。
しかしながら、こうなってしまった政宗は止められないと言う事も知っていた。
彼女は苦笑を浮かべつつも、わかりました、と頷く。

「では、小十郎さんに怒られないよう国境の村の視察に行きましょう」
「…お前もずる賢くなったな」
「何時間も怒られれば、嫌でも対処を学びます」

そう言うと、彼女は最後とばかりに外套を羽織り、彼を見上げた。
行きますか?と問いかければ、既に準備を終えたらしい彼が、あぁ、と返事をする。
二人で並んで馬屋へと向かった。
既に連絡が来ていたのか、二人の馬は最低限の馬装を施され、主人が来るのを今か今かと待ちわびていた。

「お待たせ。最近ご無沙汰でごめんね?」

姿を見るなり長い顔をすり寄せてくる虎吉。
彼女は自分よりも大きい馬の顔が近付いても怯えることなく、寧ろ嬉しそうに微笑んだ。
自分が大事にしている愛馬なのだから、怯えるなどあり得ないのだけれど。

「道中お気をつけて!!」

部下に見送られ、城を後にする。








穏やかな日差しに見守られ、小高い丘を走る。
風を切るほどの速度ではなく、どちらかと言えば馬に合わせた速度だ。
この所、城の中の事が忙しく、あまり構っていなかった虎吉は上機嫌に足を動かしている。
人間だったならば、鼻歌でも聞こえてきそうだと思った。

「良い天気だな」

隣を走る政宗がそう言った。

「そうですね。風が気持ち良い」
「向こうに桜の木があったはずだ。丁度良い時期だろうから、見ておくか?」
「はい、是非」

彼女がそう答えれば、政宗は手綱を取って馬首を変更する。
少し走れば丘の先に緋色の桜が見えてきた。
今が満開なのか、枝全てが花びらをまとっていて美しい。

「たまにはこうして穏やかに散歩を楽しむのも良いですね」
「あぁ。こいつらも喜ぶしな」

政宗の手が自身の愛馬を撫でる。
その手つきが優しくて、つい見つめてしまった彼女の視線に気付くと、彼は意味深に笑った。

「お前も撫でてやろうか?」
「そ、そう言う意味で見ていたわけじゃありませんっ」

頬を赤くしながらもつんと顔を背けて見るが、やはり多少の期待があることは否めない。
伸びた手を素直に受け入れてしまった彼女は、自嘲の笑みを零しつつ、もう、と呟いた。

【 014.散歩 】  伊達 政宗 / 廻れ、

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

10.04.08