011.封印
申し訳ありませんと頭を下げた彼女を見て、私はこの想いに蓋をすると決めた。
一族や周囲からの蔑むような目。
家の者の冷ややかな態度。
きっと、彼女が心を安らげる場所は、白哉様の隣以外にはなかっただろう。
それでも尚、四大貴族である彼の元へと嫁ぐ事を決めた彼女を見て、これでよかったのだと思った。
ただ一度だけ顔を合わせた時、私の立場を悟った彼女は、本心から謝罪の言葉を口にした。
その一度で、これまでの全てを封印しようと心に決めたのだ。
私を後妻に迎える事が彼女の望みだと知り、まさかと思った。
彼女は私が白哉様に向ける想いにも気付いていたはずだ。
それなのに、自分の後、彼の隣に立つ事を望む彼女の心は、私には理解できないものだった。
けれど、蓋をしたはずの想いが彼の望みを拒む事を許さなかった。
結果、数年遅れて、私は彼の元へと嫁ぐ。
後悔はないけれど、戸惑いはある。
一度は蓋をした感情があふれ出さないだろうかと、そればかりが不安だ。
そうして朽木家に入った私。
努力も不安も、無意味だった。
彼の近くに立ってしまえば、昔の感情がいとも簡単にあふれ出す。
蓋など全く意味を成していなかった。
「緋真様…あなたは残酷な人ですね」
彼女を想う白哉様を支えろと仰るのですから。
物言わぬ遺影を前に、小さく呟く。
儚い笑顔を浮かべた彼女は、何を思っていたのだろうか。
添えてある花を新しいものへと取り替えながら、そんなことを考える。
結局のところ、彼女の思いなどもう聞くこともできないのだけれど。
「奥方様、旦那様がお呼びです。呉服屋が参りましたわ」
「すぐに行くわ」
呼びに来てくれた侍女に下げた花を渡し、教えられた部屋へと向かう。
庭先の桜がはらりはらりと花びらを散らす。
また、始まりの季節がやってきていた。
【 011.封印 】 朽木 白哉 / 睡蓮