009.腕輪

「どうしたの?」

翼にそう問いかけた事には理由がある。
隣に座っていた翼が私の手首を掴んだから。
問いかけにも答えずに、じっと手首を掴む自分の手を見下ろしている彼。
その様子が何かを考えている時の物だと気付き、ひとまず黙ってみた。
暫くして、彼が口を開く。

「…細いね」

納得したように呟いた彼に、訳がわからない私は首を傾げた。
そして、その意味を探ろうと彼と同じ所に視線を落としてみる。
相変わらず私の手首を握る翼の手。
青年へと片足を踏み出している年頃の彼の手は大きく、私の手首などすっぽりと―――
そこで、彼の言葉の意味に気付いた。
彼の手は、ただ私の手首を掴んでいるわけではなく、その指で輪を作るようにして私の手首に回していたのだ。
人差し指と親指で作った輪の中に私の手首が入っても、まだ少し余裕がある。
折れそうなほどに細い手首と言うわけではないけれど、こうしているとその細さが強調されているような気がした。

「まぁ、翼と比べるなら細いかなぁ。あんまり自覚してないけど…」
「思い切り握ったら折れそうだよね」
「流石に折れたりしないと思うけど…確かに、男の子の握力で握ったらわからないかな」

先日の体力測定で恐ろしい数値を自慢し合っていたのを覚えている。
翼の数値を聞いたわけではないけれど、そう大きな差はないはずだ。

「こうして比べると男女の差を実感するね」
「うん。手だって随分大きさが違うし…でも、バスケ部なんかはもっと大きいよね」

ひょいと指の輪を抜け出し、その手を翼の手に重ねてみる。
指は短くない方だと思っているけれど、全体の大きさはやはり翼の方が一回りほど大きかった。

「あいつらそのうちサッカーボールでも掴みそうだからね」
「掴めるんじゃない?バスケットボールより少し小さいでしょ?」
「…そうだったかな。比べてないから覚えてないけど」
「うん。私もうろ覚えだけど…そんな気がする」

サッカーボールはこれくらい、と大きさを示すことができるけれど、バスケットボールは体育の授業で使っただけだ。
このくらい?と大きさを示すにも少し不安が残る。

「そう言えば、この間良いブレスレットを見つけたよ。似合いそう」
「私に?」
「他に誰がいるの?」
「そっか。どこのお店なの?」
「駅前の通り。今度の休みに一緒に行こうか」
「うん。あ、でも学校では付けられないからなぁ…」
「見るだけ見てみれば?」
「…んー…うん、そうする」
「来月は誕生日だし、俺からのプレゼントにしようか?」
「そう言うのって本人には言わないものじゃない?」
「本人の欲しいものをあげるってのも一つだよ」
「まぁ、そうかもしれないけど…プレゼントかどうかは、翼に任せる。でも、アクセサリーはまだ早いかな…」
「それは本人次第だよね。ま、店に行けばもっと良いものが見つかるかもしれないし」
「うん。…出掛けるの久し振りだね。楽しみ」

嬉しさを表現する為に翼の指に自分のそれを絡めて手を握る。
逃げる事もなく握り返してくれた彼に、小さく笑った。
少し恥ずかしいとは思うけれど、それ以上に触れ合う事が嬉しいと思うようになってきている。
子供の頃は一緒にいられるだけで楽しくて、触れ合う事に対して深く考える事などなかった。
けれど、今は違う。
きっとこれが、心の成長なのだろう。

「翼。やっぱりブレスレットほしいかも」
「別にいいけど、さっきの今でどういう心境の変化?」
「んー…秘密」

【 009.腕輪 】  椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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10.03.31