007.指先

知識のない私にとって、ローさんの指はまるで魔法の指みたいだと思う。
男らしい指が驚くほど繊細に動いて、人の命が紡がれる。
かと思えば、その手が刀を握り、海兵を片っ端から倒していく。

「ここにいたのか」

声が聞こえて、意識していないのに尾が反応した。
窓の外を見つめていた顔を振り向かせると、私を見下ろすローさんが見える。

「ローさん!もう終わったの?」
「あぁ」

私の言葉に短く頷くと、ローさんはガタリと椅子を動かし、そこに腰を下ろす。
少し疲れた様子も無理はない。
ローさんはつい先ほどまで手術室に籠っていたのだ。
怪我をした仲間の治療のために一晩、ローさんは部屋から一歩も出て来なかった。

「疲れてる?お茶でもいれようか?」

それよりも眠ったほうが良いのだろうけれど、ベッドに行かない所を見ると今はまだ眠るつもりはないのかもしれない。
それならば身体を温めた方が、と思い提案してみたけれど、ローさんは小さく首を振った。
伸びた彼の手が私の顎へと辿り着く。
長い指先が優しく喉を擽り、意識していないのにグルグルと喉が鳴った。

「…ローさん?」
「………動物ってのは思ったより和むもんだな」

つくづく納得したような声でそう呟いたローさんに、思わず笑ってしまう。
こんな身形でも、疲れたローさんを癒す事ができるなら、これほど嬉しい事はない。
こんな風にしみじみと言われるようなことではないと思うけれど。

そんな事を考えながら、出窓からローさんの膝の上へと飛び乗る。
きっともうすぐ眠りに行くのだろうけれど、少しの間でもローさんが癒されてくれればいい。
追うように頭の上に乗せられた手の平に擦り寄るようにして甘えれば、頭上から小さな笑い声が降ってくる。

「その内心まで猫になるんじゃないか?」
「…そんな事ないもん」
「気をつけろよ。心まで猫になっちまったら、それはそれで面白くないからな」

そんなわけないと思うけれど、少なくとも完全な猫としての自分を求められているのではないと知って、ほんの少しだけ安堵する。
人として私がローさんの役に立てる事は少ないけれど、それでも人としての私を望んでくれているのだとわかったから。
甘えるように、にゃあ、と小さく鳴いて彼を見上げると、優しい指先が私の頬を撫でた。

【 007.指先 】  トラファルガー・ロー / Black Cat

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

10.03.27