006.契約

「契約と言うのは厄介なものだな」

主の使い魔である私を見下ろし、蔵馬様はそう呟きました。
その目は冷めていて、けれど殺気のようなものは込められていません。

「厄介…ですか」
「使い魔…良くも悪くも主と一心同体の存在は、俺にとっては望ましいものではない」
「あぁ、なるほど」

蔵馬様の答えを聞いて、漸く彼の言葉の意味が理解できました。
主の全てを手に入れたとしても、その傍らには漏れなく私の存在があります。
もちろん、場の空気を読んで姿を消す事はありますけれど…蔵馬様にとってはそう言う問題ではないのでしょう。
ある意味では、主の信頼を一番に受けているのは私ですから。
これは自惚れではなく事実です。
おまけのようについてくる私は、蔵馬様にとってはお邪魔虫なのでしょうね。
とは言え、この方は契約を解けとは仰らないでしょう。
主が私の他の使い魔を亡くしていることを知っているのですから、当然です。
邪険にも出来ず、かといって全面的に受け入れるには大きすぎる。
まさに目の上のたんこぶ、と言ったところでしょうか。

「私は蔵馬様との関係を邪魔したりはしません」
「それは当然だな。お前は彼女の望まない事はしない」

少し、カチンときました。
蔵馬様曰く、お二人の邪魔をするのは主の望まない事だ、と言うことなのでしょう。
いえ、それが偽りだとは言いません。
ですが、その自信に満ち溢れすぎた表情に、少々引っかかりを覚えました。

「ええ、主の望まない事は致しません。…主の心が変われば話は別ですけれど」

言葉の含みを理解された蔵馬様の表情が若干強張りました。
主の使い魔として過ごして数百年。
従順なだけではやっていけない修羅場を何度も潜り抜けてきた私を侮ってもらっては困ります。

「…思ったよりいい性格をしているな。猫かぶりか」
「主はご存知ですよ?臨機応変、使い分けているだけですから」
「………なるほど。彼女の使い魔らしい」

蔵馬様の表情に笑みが戻ります。
どうやら、この性格はお気に召したようですね。

「今は慣れないが…すぐにお前の存在ごと受け入れてみせるさ」
「期待しております、蔵馬様」

たまには本音で語り合うと言うのも大切ですね。

【 006.契約 】  妖狐蔵馬 / 悠久に馳せる想い

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10.03.25