002.輝石
訪れた町の大通りに多くの露店が並んでいた。
何でも、この季節の祭りが関係しているらしい。
多くの人で賑わう中を歩きながら、時折立ち止まって品物に目を向ける。
戦争途中には堪能できなかった平和がそこにあった。
「ねぇ、これ素敵ね」
「うん。綺麗だね。でも、僕はこっちの方が君に似合うと思うよ」
「そう?…へぇ、こっちも綺麗だわ。何の石かしら」
薦められたペンダントを手に取り、じっくりと見下ろす。
すると、その露店の主が「翡翠だよ」と教えてくれた。
「翡翠って不透明な石だと思っていたわ」
「特殊な鉱山で採った翡翠で、澄んだ色合いが一押しの石なんです。お嬢さんの優しい雰囲気によく似合いますよ」
「まぁ、お上手ね」
クスリと笑い、彼女はそれを台に戻そうとした。
その表情から気に入った商品である事は明白だが、彼女は欲のない人間だ。
何もないのに、効力のないアクセサリーを購入すると言う考えはないのだろう。
彼女らしいと言えば確かにそうだけど、もう少し自由に生きていいのにとも思う。
「これで足りる?」
少ないとは言えない額を差し出せば、店主は気前よく「ありがとうございます!」とそれを受け取った。
お金に困る旅はしていないから、この程度で懐が痛む事もない。
けど、彼女にとってはそうは思えないらしい。
「そんな…悪いわ」
「僕が贈りたいだけだから。君にはよく似合うと思うし。受け取りたくないって言うなら、仕方ないけど」
「…そんな言い方はずるいわ」
少し拗ねたようにそう言ってから、彼女はクスリと笑う。
ペンダントを包もうとした店主を止めて、それを受け取った。
革紐を千切りながら彼女の背中に回って、しっかりと結ぶ。
思ったとおり、繊細なつくりのペンダントは彼女によく似合った。
「お似合いですね」
「そうだね。いい色だと思うよ」
「いえ、ペンダントもそうですけれど…お二人が、ですよ」
おつりを差し出した店主は彼女と僕を見て、そう言った。
顔を見合わせた僕たちは、示し合わせたように笑いあう。
「お幸せに」と言う声に見送られ、賑わう大通りを並んで歩く。
平和な幸せをかみ締めた一日だった。
【 002.輝石 】 1主 / 水面にたゆたう波紋