001.世界
この世界に来てもう随分と経つけれど、未だに世界が違うのだと感じる事がある。
それは習慣だったり家屋だったり、炊事洗濯だったり。
様々な場面でそれを感じる。
当初よりはその回数は減ってきているけれど、時折違和感を覚える時があった。
現代に居た頃には人並み以上に料理も出来たし、洗濯や掃除だって何の問題もなかった。
こちらでは水を沸かすどころか、水を汲む時点から違っていて、過去の経験を生かすことは難しい。
水道なんてものはないし、ガスコンロもない。
始めこそ手伝おうとした事もあったけれど、三度目で諦めた。
今となっては自分に出来る事をすると決めているから、女中の皆さんの邪魔をしないように極力顔を出さないようにしている。
彼女らは私が顔を出すとその手を止めて対応してくれるから。
違うと感じる事もあれば、同じだと感じるものもあった。
城下町を一望できる部屋は、城の中でもお気に入りの場所だ。
窓際に腰を下ろして町を見下ろすと、時折子供を連れた母親の姿を見る事ができる。
どんな時代、どんな場所でも、子を思う親心は変わらない。
慈愛に溢れたその光景を見る時、私は自分の中で守るべき者の姿を確かなものにしていく。
「またここに居るのか」
彼が近付いてきている事は知っていた。
驚くでもなく振り向く私に、政宗様は静かに微笑んでくれる。
「守るという覚悟をくれる、大切な場所ですから」
「…あぁ、そうだな」
隣に並んだ彼は、きっと私を同じものを見ているのだろう。
私は、彼と同じものを見ているだろうか。
時々、不安に思う。
「久し振りに町に下りるか」
「え?」
「このところ慌しくてご無沙汰だっただろ?息抜きもいいんじゃねぇか?」
「でも…」
そう言ってちらりと視線を動かした先には仕事の山。
地方から集まってくる書類の処理を終わらせなければならないのだ。
私の視線の動きに気付いた政宗様は、それを遮るように私の前にしゃがみ込んだ。
「守りたいもの、たまには近くで感じとかねぇとな。直に接して気付く事もあるだろ?」
「…そうですね」
紙面では聞こえない、そこに生きる人々の声。
それを聞く時間は、決して無駄ではない。
もちろん、それが建前である事は明らかだけれど…私には動くための理由が必要だったから。
「ご一緒していただけますか?」
「よし!まずは、この間出来た甘味所の視察だな。美味いって評判だぜ」
「そうですか。それは楽しみですね」
【 001.世界 】 伊達 政宗 / 廻れ、