093.恋い焦がれること
試合の最中、観客席から聞こえる黄色い声。
注がれる視線。
熱視線と言うべきそれは、まさに恋する女子生徒から発せられている物だ。
それを一身に受けているのは流川。
ふと、試合から視線を外し、観客席を見る。
人目を惹きつけてやまない流川のプレーに、魅了される人々。
―――私が彼に向ける眼差しも同じなのかしら。
思わず自嘲の笑みがこぼれてしまう。
目ざとくそれを見つけた彩子先輩が、どうしたの、と問いかけてきた。
「試合に対して…じゃないわよね?」
確認するように問いかけるのも無理はない。
試合は湘北が圧倒的にリードしていて、もう勝敗は決まったも同然だ。
それに対して浮かべるとすれば自嘲ではなく嘲笑になってしまうだろう。
「まぁ、色々と」
彩子先輩を相手に誤魔化すのは難しいけれど、優しい彼女は本当に嫌な事を無理に聞き出したりはしない。
そうしている間に試合終了の笛が鳴り響いた。
湘北の勝利を告げる声、喜ぶ観客席の半分。
最後の最後でダンクシュートを決めた流川に注がれる視線は熱い。
彼のプレーを思い出すと、胸の奥が疼くのを感じる。
同時に、酷く切ない感情が胸にこみ上げた。
これが、恋い焦がれると言う事なのだろうか。
彼とは恋人関係にある。
けれど、明確な心の繋がりを持たない私は今、彼と恋愛しているとは思えなかった。
どちらかと言うと…観客席から彼を見つめる彼女らのように、彼に恋している。
「タオル」
「あ、うん」
彩子先輩もタオルを持っているのに、迷いなく彼は私の元へと歩いてきた。
それだけで胸が切なく高鳴る。
少なくとも、観客席よりは遥かに近い…手を伸ばせば届く場所にいられる自分。
もう少し勇気を振り絞れば、何かが変わるかもしれないのに、変わってしまう事を恐れている。
女の子は恋をすると強くなる…けれど、同時に弱くもなるのだろう。
いつの日か、もう少しの勇気を振り絞る事が出来れば…そう思いながら、彼にタオルを差し出した。
「お疲れ様」
「あぁ。観客席に知り合いでもいるのか?」
「え?」
「試合中、見てただろ」
彼からの思わぬ言葉に驚く。
そして、苦笑を浮かべて首を振った。
「ううん。黄色い声援が多いなーって思ってただけ」
「…うるせーだけだ」
そう言って、彼は私の頭にぽんと手を置いてから集合をかけるキャプテンの元へと歩いて行った。
もしかして、フォロー、されたのだろうか。
らしくない優しさに、思わず笑顔が零れた。
自分も大概単純にできていると呆れるけれど…それが、とても心地良い。
「…頑張ろう」
いつか、ちゃんと向き合えるように。
【 恋い焦がれること 】 流川 楓 / 君と歩いた軌跡