092.素直になれない
教室の中で「可愛いね」と言うのは周囲の目が痛いからやめて欲しい。
本人にそれを伝えると、彼は笑ってこう答えた。
「君は相変わらず恥ずかしがり屋だな」
そう言う問題じゃないのだと、どう言えば彼に伝わるのか。
「どう思う?」
とりあえず、一番身近な花梨に聞いてみる。
花梨は、うーん、と頭を悩ませてから口を開いた。
「大和くんってそう言うの気にせーへんからなぁ。諦めた方が早いんちゃう?自分に素直な所が大和くんらしいし」
花梨も彼の行動に色々と悩まされてきた人間だ。
そう言う人に聞くのが一番だと思ったけれど、彼女自身の勧める対応は「諦め」らしい。
あの羞恥プレイを諦めて受け入れろと言うのか。
想像してみて、やはり無理な話だと思った。
「そのうち恥ずかしくて死にそう。穴があったら入りたい」
「素直やないねぇ」
花梨がクスリと笑った。
このタイミングで笑われる理由がわからない。
「私が?」
「うん」
「…何で?」
「だって、恥ずかしいって言いながらも嬉しそうやもん」
花梨の言葉は私にとっては信じがたいものだ。
―――嬉しそう?私が?
信じられなくて呆然とした顔をしているだろう私に、花梨は続けた。
「ほんまに嫌そうな反応やったら、いくら大和くんでもやめてくれると思うよ」
そう言う気遣いはちゃんとできる人やから。
花梨の声をどこか遠いところで聞きながら、知ってる、と思った。
彼はとても積極的でまっすぐな人だけれど、自分本位な人間ではない。
ちゃんと気遣いを知っていて、本当に困るようなことはしない人なのだ。
と言うことは…彼女の言うように、私は本当に嫌だとは思っていない…のだろうか。
「…でも、嫌なんだけど」
「それは嫌やなくて照れてるんよ、きっと」
「………照れだろうがなんだろうが、恥ずかしいものは恥ずかしいのよー!!」
穴があったら入りたいどころか、穴がないなら自分で掘ってでも逃げ込みたいような気分なのだ。
思わず机と仲良くなる私に、花梨が苦笑したのを気配で感じた。
「まぁ、そのうち慣れるって」
相手は大和くんやから。
とても説得力のある言葉に、うぅ、とうめく。
もうすぐ部活を終えた彼が教室にやってくるだろう。
そのときまでに、頬の熱が引くことを祈るばかりだ。
【 素直になれない 】 大和 猛 / ガーベラ