091.ふとしたときに指先が触れて

ガタン、ゴトン、と列車が揺れる。
窓の外に遠く見える風景は、先程からさほど変わっていない。
その代わり、近くの風景は飛ぶように過ぎて行く。
目的地の山は、どんよりとした雨雲を背負っていた。

「向こうは雨だな」

隣から声が聞こえた。
そちらを向く事もなく、そうね、と頷く。
きっと、彼も自分と同じものを見ているのだろう。

「雨は嫌だわ。他のメンバーの動きが悪くなるもの」
「ほうっておけばいいだろう」
「チームに死人を出すのは後味が悪いわ」

言っている事は酷いのだが、二人にはそう言えるだけの実力があるのだから仕方ない。
隣の車両に乗っているメンバーが聞けば落ち込みそうなほど辛辣な言葉だ。
わざわざ車両を分けているのは、列車の中くらいは緊張を解いてほしいから。
伝説と謳われる二人を前にすると、緊張するなと言う方が難しいらしい。
適度な緊張は重要だが、過ぎた緊張は精神力を奪い、冷静な思考を妨げる。

「あ、降ってきた」

雨雲の届く範囲に差し掛かったらしい。
窓ガラスに雨水が筋を作るのを見て、彼女が小さく呟いた。
その筋に指先を滑らせる彼女。

「あぁ、そのようだな」

包むように背中を熱が覆い、窓ガラスに添えた手に一回り大きな彼の手が重なる。

「………セフィロス」

咎めるようにその名を呼ぶと、誤魔化すように髪を掻き分けた首筋に口付けられる。
稀に、彼はこうして任務中であることも忘れて自分に触れようとする。
これが家だったなら甘んじて受け入れる所だが、生憎彼女は一般的な常識を持ち合わせている人間だ。

「続けるなら帰ってから近付かせないわよ」
「………お前は真面目だな」
「常識人だと言ってちょうだい」

いつの間にか寛げられた襟元を整えてから、窓ガラスに背を向けて彼を振り向く。
他の人に言わせれば相変わらず無表情なのだが、彼女からすればこれは僅かに不機嫌な表情だ。

「あなたのスイッチがよく分からないわ」
「お前が触れてくるからだろう?」
「…そんな事した?」

きょとんとした表情の彼女に、彼は、あぁ、と頷いた。
そして、投げ出されている彼女の指先に自身のそれを僅かに触れさせる。
触れた手が、そっと手の甲をなぞった。
もしかしなくても、これが自分の取った行動なのだろうか。

「…んー…ごめんなさい、と言うべきかしら。とにかく、帰ってから…ね」

どうやら、彼女が彼に触れるのは無意識で、彼が彼女に触れるのは意識してのことらしい。
苦笑を浮かべる彼女の向こうで、雨脚が徐々に強まってきていた。

【 ふとしたときに指先が触れて 】  セフィロス / Azure memory

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10.02.26