088.木枯らしが吹く日に
「さーむーいーっ!!!!」
一歩甲板に出るなり、彼女は思わず声を上げた。
先日秋島を出発したハートの海賊団は、現在冬島への航路を進んでいる。
もう半日もすれば島に到着すると言う事もあり、ころころと変化していた気候も冬型に落ち着いてきていた。
猫の習性が大いに影響しているのか、彼女はとても寒がりだ。
と言う割には、膝上のロングブーツを履いているとは言え、そこから20センチは太股が丸出しである。
一味の皆が来ているつなぎが格好良いとそれを強請った彼女だが、反対したのは可愛い彼女には色々な格好をさせたいと思う親心にも似た感情を抱く仲間たち。
妥協点として、足首までのつなぎをホットパンツのレベルまで切って端を処理し、腰には太めのベルトを巻いた。
丸出しの足はロングブーツでカバーしておけば、彼女の体術にも大きな影響はない。
スレンダーな身体、引き締まった尻を包むつなぎは、多少直しているとは言え自分たちと同じつなぎとは思えない。
胸元にあるハートの海賊団のシンボルマークがなければ、とても同じには見えないだろう。
形はかなり変わってしまったけれど、彼女はそのシンボルマークがあるだけでも満足だった。
「うちの黒猫は随分と寒そうだな」
「あぁ、仕方ないだろ。猫だからな」
「あぁ、そうだな。猫だしな」
寒いのが嫌なら甲板に出なければいいものを、と思いつつも、寒さに震えつつ次の島が見えないかと甲板の端に張り付く彼女が可愛らしいので放っておく事にする。
窓から見える彼女が、もう一度寒い、と叫んだ。
「外に出るならコートを着ろって言っただろうが」
背後からそんな声が聞こえたと思うと、ふわりと肩に白いコートがかけられた。
落とさないようそれに手を添えながら振り向くと、見るからに寒そうな格好のローが立っている。
「ローさんの格好の方が寒い!!」
ヒィ、と悲鳴のような声を上げる彼女に苦笑する。
彼はこの程度を寒いとは思わない。
だが、それを彼女に言えば信じられないと反論してくるのだろう。
「外に出るなとは言わないから、ちゃんと着こんでから出てこいよ」
「はーい」
子供のように間延びした返事をしてから、彼女は前のチャックを胸元まで上げる。
つなぎの首元も意図的に開かれていて、そこから見える白い首筋には相変わらず赤いリボンと鈴が見えた。
これを隠すのは嫌だからと、彼女はタートルネックの服やマフラーを嫌う。
「あとどれくらいかな?」
「そう言うのは航海士に聞けよ」
「んー…ローさんならわかりそう」
「…まぁ、恐らく4、5時間だろうな。気候が安定してきたし、そろそろ雪も降りそうだ」
空を見上げた彼がそう言うと、彼女の目が輝いた。
寒いのは嫌いなのに、雪は好きだ。
寒がりなのは猫だが、そう言う所は犬っぽいと思う。
「雪かぁ」
「4時間も外で待つなよ。島に着いたら好きなだけ遊べるからな」
「………」
「返事」
「はーい」
やや不満ながらも、道理だと納得したのだろう。
とりあえず返事をしてから、彼女はふふっと笑った。
「ローさん、お父さんみたい」
「…親父はやめろ」
そんな柄じゃないし、父親のつもりはない。
やや乱暴に頭を撫でてやれば、彼女は嬉しそうに笑い声を上げた。
「中に入るぞ」
「うん!」
【 木枯らしが吹く日に 】 トラファルガー・ロー / Black Cat