086.木々が色づく頃
「この世界にも色づく木々はあるのかしら?」
ふと、窓の外の風景を眺めていた彼女がそう問いかけた。
棍を磨いていた手を止めて彼女を見つめる。
「色づく?」
「気温に合わせるように赤や黄色に葉を染める木の事。私の世界では、寒くなる前によく見られる風景だったの」
「…あぁ、紅葉の事だね」
彼女の説明を聞いて、漸くそれを理解した。
頷く僕に、彼女が振り向く。
「どこに行けば見られるの?」
「うーん…このあたりももうすぐ雪が降るし、そろそろ色づき始めてる頃だと思うよ。この先の山なら、それが顕著に表れるだろうね」
見に行きたい?と問いかけると、彼女は少しだけ悩んでから頷いた。
「じゃあ、明後日にでも行ってみようか」
「嬉しいわ。あ、でも…こんな時に、そんな暢気なことを言っていいのかしら…」
「大丈夫だよ。最近はあの山にも行ってなかったし、丁度いいから山越えして仲間を探しに行こう。一日では帰って来られないと思うけど…」
「それは構わないわ。そうなると、ちゃんとメンバーを考えないと」
「僕としては君と二人で行きたいけどね」
「皆が心配するから駄目よ」
「君ならそう言うと思ったよ。わかった。メンバーは君に任せるよ」
好きに決めて、と告げると、彼女は了承するように頷いた。
そして、誰ならば紅葉に興味があるだろうかと楽しげに悩みだす。
そんな彼女の姿を見ているだけで、こちらまで気分が高揚してきた。
「ルックは駄目ね。理由を知られたら怒られちゃう」
「確かに。フリックもやめておこうか」
「あら、どうして?」
「心配性だから。見てるこっちが妬けるくらいにね」
「じゃあ、グレミオさんも?」
「そうだね。今回は待っていてくれるように頼んでみようかな」
「…納得してくれるかしら」
「大丈夫。納得してもらうから」
「…その笑顔と言っている事が一致していない気がするわ」
それから、二人でまるでピクニックのように色々と計画を立てる。
突然山を越えて仲間を探してくると言いだした僕に、マッシュは何も言わず山の向こうの町の情報を渡してくれた。
こんな時だからこそ、たまには息抜きも必要なのだと、理解してくれたのだろう。
「くれぐれも気を抜かないように。息抜きは大事ですが、怪我をしてはいけませんよ」
「大丈夫。そうなったら気にするのは彼女だからね。自分も彼女も、メンバー全員も、ちゃんと帰ってくるよ」
「…まぁ、それがわかっているのならば良いでしょう。お気をつけていってらっしゃいませ」
二日後、大げさすぎるほど心配するグレミオとフリック、そして居残りのメンバーに見送られ、赤く色づく山を目指して城を出発した。
【 木々が色づく頃 】 1主 / 水面にたゆたう波紋