085.しあわせなぬくもり
ふと夜中に目を覚ますと、寒さではなくぬくもりを感じた。
寝苦しくない程度に身体に絡みついた腕に気付き、その理由を知る。
後ろから包み込むように抱きしめられているので、呼吸を遮るものは何もない。
だが、当然ながら視界にその人が入り込むことはない。
背中全体で体温を感じる事は出来ても、視界に入らないと言うことに、ほんの少し肌寒さを感じた。
起こしてしまうだろうか。
そんな心配をしながらごそごそと動き、包み込む腕の中で身体を反転させる。
この体勢でも、上を向かなければ彼の顔を見る事は出来ない。
けれど、少なくとも彼の身体の一部が視界を覆うのが心地よい。
「…満足した?」
低い声が頭の上から聞こえた。
驚くよりも先に、やっぱりと思う。
彼はこれだけ密着した状態で動いて起きないほど図太い性格ではないから。
「でも、珍しいな。いつもは後ろからの方が好きなのに」
「寝入りはその方が楽なのよ」
「じゃあ、今は…寂しくなった、とか?」
くすりと笑った彼は、もしかすると全てを知っていたのかもしれない。
彼と視線を合わせて、意地悪ね、と告げれば、謝罪の代わりに軽いキスが額に降る。
「子守唄でも歌おうか?」
「…蹴るわよ」
「それは嫌だな。じゃあ、抱きしめるだけ」
そう言った彼の腕が、勢いのまま身体を攫って行く。
彼の思うままに動かされた身体は、いつの間にか彼を見上げるようにベッドに横たえられていた。
「…抱きしめるだけじゃなかったの?」
「うーん…どうしようか?話したせいで目が覚めてしまったみたいだ」
楽しげに笑う彼の赤みがかった黒髪がさらりと動き、頬を撫でてくる。
二人の距離をゼロにするように近付く彼に、そっと目を伏せた。
【 しあわせなぬくもり 】 南野 秀一 / 悠久に馳せる想い