084.裸足で触れた、

「猛は強引だよね」

今更だけど、と呟くと、教科書に落とされていた彼の視線が私を見る。
ノートの上にシャープペンシルの先をピタリと貼り付けたまま彼はそうか?と首を傾げた。

「…強引じゃないつもりだった?」
「いや、君がそう思うならそうなんだろうけど…」
「あ、怒ってるわけじゃないのよ。そう言う所、猛らしいと思うし」
「うん。君はそんな小さな事で怒るような人間じゃないからな」

爽やかにそう言った彼に、私はほんの少し言葉を詰まらせる。
表情や言葉に出さなかった小さすぎる怒りなんて、沢山あったと思う。
怒りではなかったかもしれないけれど、大きく分類すると間違いなくそれだった。
どこまでもポジティブな彼には私の訴えは正しく伝わらず、まるで子供の反抗期のようにあたたかくも優しい表情で見守られてしまう。
彼と付き合うために重要だったのは、早期の慣れと諦めだ。
こう言う人だからと考えるようになってからは、随分と楽になったと思う。

「何で急にそんな話を?」

そう問いかける彼に、何故だったかと記憶を手繰りよせる。

「んー…猛の性格を考えてたんだったと思う」
「俺の性格?」
「そう。強引だけど優しくて…だからこそ、皆から頼られるんだろうなぁって。本当に強引な人って人の心の中にずかずかと土足で上がり込んでくる感じでしょう?でも、猛の場合は…心に入る前にきちんと靴を脱いで揃えてくる感じ。ずかずか入り込んでくる所は同じなのに、裸足で触れてくれるから…不思議と、嫌じゃない」

それが苦手だと思った時期はある。
けれど、今となってはそんな強引さも心地よく思えるのだ。
ひとえに、彼の人格のなせる技だと思う。

「…私、運が良かったと思うの」
「運?」
「私みたいに普通の女の子が猛の隣にいられるから」

笑顔を浮かべながらも、私は真剣だった。
本当に、今でも時々信じられないと思ってしまうから。
私は彼と一緒にいて幸せだけれど、彼はどうなんだろうとか…不安になる事もある。

「運が良かったっていうよりは運命って言ってもらいたいな」

相変わらず爽やかな笑顔を浮かべた彼の言葉に、驚きのまま目を見開く。
そして、思わずくすくすと笑いだしてしまった。
首を傾げる彼に、教えてあげよう。

「ねぇ、知ってる?私たちが出会ったあの廊下」
「ん?」
「『運命の曲がり角』って呼ばれてるのよ」

二人は帝黒の中でも指折りのカップルで、同級生や下級生から憧れの的になっていた。
いつだったか、彼との馴れ初めを聞かれて、私の方は秘密と内容を隠したのだが、彼があっさりとそれを暴露してくれた。
翌日には校内新聞の一面をにぎわせる記事になってしまったのだ。
今や誰もが知る、二人の漫画みたいな出会い。
それに憧れてあの廊下で待ち伏せする生徒が後を絶たず、一時は事故を案じた学園が鏡を設置したが、生徒会の要望で翌週には撤去されたらしい。

「そんな大きい事をしたわけじゃないのにね」
「楽しそうでいいじゃないか」
「卒業までに誰かにぶつかられちゃったらどうするの?」
「大丈夫。もう君以外の女の子にはぶつからないよ」

それが出来るだけの身体能力を持っているからこそ、彼の言葉に偽りはない。
真正面から全力で向けられる愛情には少し戸惑う事もあるけれど…正直、ここまで愛されるのは女冥利に尽きると思う。

「…これからもよろしくね、猛」
「もちろんだよ」

【 裸足で触れた、 】  大和 猛 / ガーベラ

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10.02.18