083.軽やかに去っていった、一陣の風

ヒュウン、と何かが余韻を残して飛んでいく音が聞こえた。
人気の少ない夕暮れの公園。
やや廃れたそこは、子供たちが遊ぶには遊具も何もない場所。
こんな辺鄙な所に来るのは自分だけと思っていたのに、どうやら違っていたようだ。
開いた手の中に風を起こしていた魔力を止めて、周囲を見回す。
整えられることなく自由奔放に伸びた蔦が絡む木の向こうに、彼はいた。
また、風を切る音が聞こえる。
すると、それはぐんぐんと飛距離を伸ばして、私が見つめていた木に絡んだ蔦をザンッと豪快に散髪した。
それでも止まらなかったそれは、緩やかな曲線を描いて私へと迫ってくる。
このままでは直撃は避けられない―――少し悩んで、風を起こした。
スピードを緩めたそれは、引き寄せられるように私の手の中へと納まる。
当然、それの持ち主は戻ってくるはずのそれが戻ってこない事に疑問を抱いた。
失敗か、と言う想いが前面に出た表情。
彼の目が私を映した瞬間、それは驚愕へと変化した。

「ブーメラン?格好良いね」

彼が何かを言う前に、先制攻撃。
くるりと指先の上でブーメランを回した私の言葉に、彼は驚きの表情を浮かべたまま制止していた。

「おーい?」

平気?と手を振ると、金縛りから解放されたように動き出す彼。

「ご、ごめん!!まさか人がいるなんて思ってなくて…怪我は!?」

自分がブーメランを投げた先に人がいたのだと理解した彼は、慌てて私の元へと駆け寄ってくる。
上から下まで隈なく確認される事に少し恥ずかしさを覚えつつ、首を振る私。

「怪我はないから大丈夫。ほら」

そう言って、手の上に風を起こしてブーメランを浮かばせる。
再び驚いた表情を見せた彼に、悪戯が成功したような達成感。
くすりと笑ってから、手の平で掴んだそれを彼へと差し出した。

「頑張ってね」

何のために練習しているのかなんて、私には関係のない事だ。
返されたそれを握りしめた彼の横を抜けて、帰路に就く。
日が暮れてしまえば両親に心配をかけてしまうだろうから、急がなければ。

「僕の名前はホープ!…君は?」

声が聞こえて、私が振り向いた。
二人の間をザァ、と風が吹く。

「私は―――」

遠い昔、風が運んできた彼との出会い。

【 軽やかに去っていった、一陣の風 】  ホープ / Crystal memory

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10.02.17