081.芽吹いた想い

小十郎に内緒で城下町に降りて、ささやかなデートを楽しむ。
初めこそ罪悪感を覚えた彼女だが、楽しさの前には儚いものだった。
少しの金を持ち出して露店で食べ物を買って、あたたかいそれを並んで歩きながら食べる。

「美味しいですね、これ」
「だろ?」

口元を綻ばせて感想を告げると、彼は嬉しそうに笑う。
その時、そんな二人の進む先から、泣き声が聞こえた。
二人は顔を見合わせ、声のした方へと歩き出す。
そこには5歳程度の子供がいて、大きな目を涙でいっぱいにしていた。
政宗が彼女に和菓子の袋を渡してその子供に近付いて行く。

「どうした?」

彼は迷いなく子供の前に膝をつき、目線を合わせるようにしてそう問いかける。
小さな手の平で涙をぬぐった子供は、ゆっくりと顔を上げた。

「…かあちゃんどこ?」

二人が想像した通り、子供は迷子だったようだ。
きっと今頃、母親は必死になって探しているのだろう。
この通りは人の流れが殆どないから、大通りの方からやってきたのかもしれない。

「とりあえず、人の多い所まで連れて行ってやる。ほら」

来いよ、と彼が手を差し出した。
子供はその手と彼の顔を見比べて首を振る。

「しらないひとについていっちゃだめなんだよ」
「…なるほどな」

気分を害した様子もなく、政宗は頷いた。
そして、もう一度子供と目線を合わせるように膝をつく。

「俺は政宗だ。お前、名前は?」
「…げんた」
「よし、これでお互い名前を知ったわけだから、知らない人じゃないだろ。それとも、まだ駄目か?」

子供はきょとんとした表情を浮かべて、それからぶんぶんと首を振る。
そして、もう一度差し出された政宗の手を、今度はしっかりと握りしめた。
彼の隣に並んで彼女に近付いた子供は、大きな目で彼女を見上げる。
子供は政宗と彼女を交互に見て、そしてくいっと政宗の着物の袖を引いた。

「ねえちゃんはまさむねのこいびと?」
「惜しいな」
「じゃあおよめさん!」

答えがわかったと表情を輝かせた子供。
政宗は口元の笑みを深め、子供の髪をがしがしと撫でた。
やや乱暴にも見える手つきだが、決して傷つけることはない。
その表情がとても優しくて、彼女はつられる様に笑みを浮かべた。

―――これだけ見知らぬ子供を可愛がるなら、きっとご自分の子供はもっと可愛がるんだろうなぁ。

それが、彼との未来に、まだ見ぬ子供の存在を意識した瞬間だった。



「ねえちゃん、なまえは?」

小さな手が袖を掴むと、彼女はそっと着物の裾を押さえながら腰をかがめて視線を合わせ、優しく微笑んだ。
私は、と口を開いたところで、三人の耳に女性の声が聞こえる。
子供を呼ぶ、母親の声だ。

「かあちゃん!!」

ぱっと手を離し、二人を置き去りにして子供が声のした方へと走り出す。
路地を抜けた先で女性にすがるその背中が見えて、親子が再会を果たしたことを知った。

「…行くぞ」
「はい」

きっと、あの子供は母に二人のことを話すだろう。
城下町に住んでいながら政宗を知らないはずがない。
驚かせることになるし、場合によっては大事になってしまう。
そうなる前に、二人は路地の奥へと逃げた。

【 芽吹いた想い 】  伊達 政宗 / 廻れ、

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10.02.15