077.ひどい、でも好き
「あなたって人は…」
呆れるようにそう呟き、足元のそれをひょいと避ける。
人と呼ぶに値しないそれは、数日前にヒソカが「気に入った」と言っていた女ではなかろうか。
「やぁ。ここに来るとは思わなかったよ。本屋はもういいのかい?」
「もう済んだわ。…何がどうなって、こうなったの?」
「僕に触れてくるから」
こともなげにそういったヒソカに、溜め息を吐きだす。
そんな事だろうとは思っていたけれど…何か別の理由があればいいとも思っていた。
「気に入ったんじゃなかったの?」
「イイ眼を持っていると思ったんだけどねぇ…見込み違いだったよ」
「弱かったの?」
「男に現を抜かすようでは強いとは言えないね」
「…あなたがそう運んだのに?」
理由は、自分に妬かせる為だ。
彼の心がこの女に向かったと思わないのは、彼が全力で私を愛してくれるからだろうか。
「妬いた?」
「妬こうにも、あなたは心移りしそうにないから」
「…仕方ないよ。君以外は女に見えない」
「光栄だと喜ぶべきなのかしら、それは」
そう言ってから、ヒソカの頬に着いた返り血を拭う。
楽しむ程度は出来たようで、僅かに残る彼の殺気立った雰囲気が私の肌を刺激した。
これが私自身に向けられたとすれば、きっと本能的に反応してしまうだろう。
「酷い男ね、あなたは」
「そうだね」
「…でも、好きよ」
血を拭ったその場所に軽く口付ける。
例え血だとしても、彼に触れていたのが気に食わなかったのだと…伝えたら、彼はどんな反応を見せてくれるだろうか。
思わぬ言葉を聞いて、珍しく目を見開いた彼にクスリと笑ってから距離を取った。
【 ひどい、でも好き 】 ヒソカ / Carpe diem