075.ねえ、こっちを見て
一人暮らしの休日は忙しい。
元々洗濯物や食器の片付けなどはその都度行っているけれど、流石に学校と部活を終えて疲れた身体で掃除までは手がつけられないと言うのが現状。
貴重な休日もほぼ部活で潰れてしまうのだが、練習が佳境に入る試合前以外は、土日のどちらかは部活が休みだ。
そんな、数少ない休みの日曜日、天気は晴れ。
布団も干したいし、普段は洗濯できない物も洗ってしまいたい。
そう思っていた彼女は、朝早くからやってくる流川に合わせて起きてからずっと、マンション内をあちらへこちらへと忙しく動いていた。
朝の練習を終えて、シャワーを借りた流川はソファーに座って彼女が視界の中を動いて行くのを無言で見つめる。
空の籠を抱えて右へ動いて行ったかと思えば、程なくして洗濯物の入った籠を抱えて帰ってきて、左へと抜けて行く。
それが干し終わったのか再び空の籠を持って左から右へ。
ソファーから見ると、左がベランダで、右には廊下へのドアがある。
流川がそこにいる事を忘れているわけではないのだが、彼女は彼に構う様子もなく、今度はバケツと雑巾を持って戻ってきた。
そう言えば、この間の雨の日に汚れた窓が気になっていると言っていた。
雑巾を絞った彼女が、スッと手を伸ばす。
そこで、彼女は一旦動きを止めた。
どうやら、窓の上部10センチほどに手が届かないらしい。
このまま拭けば跡が残ってしまうのは明らかだ。
悩んでいるらしい彼女は、相変わらず見つめている流川の視線に気付かない。
一度でも振り向けば、便利…と言うと聞こえは悪いが、役に立つ彼がいると言うのに。
まるで、本当に忘れられているような彼女の様子に、彼はむっとした。
「…貸せ」
無言で彼女の背後を陣取った彼が、言うが早いか雑巾を奪い取る。
やや乱雑に窓を拭く彼を見て、彼女は暫し呆然とした。
しかし、状況を理解して慌ててそれを取り返そうとする。
「ちょ…流川!自分で出来るから!」
「届かねーだろ」
「それは…台とかで何とかするわ」
そういって彼女の視線が台になるものを探す。
会話の間自分を見ていた目が別の場所へと動くことが不愉快で、流川は思わず彼女の頭に手を伸ばした。
そして、ぐいと手首を捻るようにして無理やり目を合わせさせる。
「………な、何、流川」
首が痛いんだけど、と呟く彼女の目が確かに流川を映していた。
その事実に満足した彼は、彼女の頭を離す。
「少しは頼れ」
ぶっきらぼうに告げられた言葉に、彼女は諦めたように笑った。
「それって…」
「よほど暇だったのか、見ていられなかったのか…どっちだと思います、彩子先輩?」
「(暇って…何でそこで構ってほしかったとは思わないのかしら、この子)」
【 ねえ、こっちを見て 】 流川 楓 / 君と歩いた軌跡