074.隣で笑っていてくれたら

「似合わないね、ティッキー」

濡れタオルを入れた容器ごと腕に抱えて部屋を出たところで、ロードの声が聞こえた。
ひどく楽しげなその声に、ややうんざりしたような目を向けるティキ。

「ほっとけよ」
「一応心配してるんだよぉ?大事なお姉様だから」

にこりと言うよりはにやりと言う表情でそういった彼女。
心配していると言う言葉は全てが偽りだとは思わない。
だが、その理由は彼女を使って自分が楽しむため…言ってしまえば、自らのためだ。

「そう言えば、そうなったんだったな」
「ひどーい!ティッキーのためにお養父様にお願いしてあげたのに!!」
「殆ど自分のためだろ、それ」
「半分はティッキーのため!」

もう半分は自分のためだと認めるロードに、彼は肩を竦めた。
一応貴族社会に生きる自分の隣に彼女を置くためには、彼女が身元不明なのは色々と問題がある。
養子縁組だろうと、貴族の家に入ることは、迷惑な柵から守るためには必要なことだった。

「もう手続きは終わったんだったか?」
「知らなーい。お養父様が全部してくれてるよ」
「…そうか」
「それより、お姉様の具合は?」
「…お前が“お姉様”って言うと気色悪―――っ!?」
「何か言ったぁ?」

容赦ない右ストレートがティキのわき腹に突き刺さった。
無言で呻いた彼は、思わず抱えた水入りの容器をロードに引っ掛けてやりたくなる。
だが、その衝動をぐっと抑え込み、姿勢を整えた。

「熱が高い。…イノセンスの最後の悪足掻きだろうな」
「…根深く巣食ったイノセンスを食らうには時間がかかるんだね」
「ま、当然だな。命があるだけマシだろうさ」

そう呟きながら先ほど触れた彼女の体温を思い出す。
出会ったばかりと言っても過言ではない彼は、彼女の平熱を知らない。
けれど、今の状態が高熱であることは明らかだった。
それを思い出した彼は、戻らなければ、とロードとの会話を切り上げて歩き出す。

「甲斐甲斐しいねぇ、ティッキー」
「うるせぇよ」
「そんなに恩を売っておいて、元気になった暁には、何をしてもらうつもり?」

チョコチョコと後ろを付いてくるロードが楽しげに問いかけてくる。
ティキは前を向いたまま、何も、と答えた。

「隣で笑ってればそれでいい」
「…………………寒っ!!ティッキーらしくない!」

らしくない、やら乙女、やらとあまり良くない言葉が追ってくる。
どうとでも言え、と思いつつ大きな歩幅で廊下を歩く。

「仕方ねぇだろ。本当にそれだけなんだからな」
「…お姉様も大変な奴に見初められたねぇ。逃げられないよ」
「当たり前。逃がすくらいなら心臓を引っこ抜くぜ?」

僅かに振り向いた彼の口元が不気味な笑みを刻む。
それを見たロードは、クスリと笑った。

「そこはティッキーらしいね」

【 隣で笑っていてくれたら 】  ティキ・ミック / 砂時計

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10.01.14