073.一度しか言わない
「痛…」
小さく呻きつつ、肩の包帯を解いていく。
じわりと赤を滲ませた白いそれの下から現れた傷は、まだ癒えていない。
無理をした所為だろうか、僅かだが、新しい血が滲んできている。
「言うことを聞かねぇからそうなるんだ」
部屋の片隅で刀の手入れをしていた高杉がそう言い捨てる。
その声に不満が見えるのは、自分が彼の言うことを聞かなかったからだとわかっている。
「お前の怪我が長引けば鬼兵隊に不都合だ」
「あーはいはい。耳にたこが出来るって。悪かったよ」
もう何度その言葉を聞いただろうか。
適当にあしらうような返事をしながら傷を消毒し、ガーゼを載せてから新しい包帯を巻いていく。
「大体、俺の傷は長引かないって。ハーフだからな」
天人の血のおかげで傷の治りは早い。
この怪我だって、自分じゃなかったら腕を落とされたかもしれないような攻撃だった。
そう考えて、やはり自分は間違っていないと納得する。
そんな自分を見て、高杉が大げさに溜め息を吐き出した。
「お前が本調子じゃないと俺が困る」
「他のメンバーで補えるだろ?」
そういって軽く首を傾げて見せた。
高杉が自分に固執する理由はない。
確かに彼と組んだ回数は他のメンバーとは比べ物にならない。
だが、自分が怪我を負っている時くらいは他のメンバーで補うことも考えるべきだ。
そう判断しての言葉だが、高杉は予想に反して眼光を鋭くした。
「勘違いするなよ。奴らの腕は買ってるが…俺の背中を預けるのはお前だけだ」
カチン、と刀を鞘に納め、それを持って立ち上がる。
高杉が去った部屋の中はがらんとして、少しばかり寂しいと思った。
「…その言葉だけでアンタの後ろにいられるって…知ってんの?」
この感情は男として生きる自分には必要のないものだろう。
しかし…捨ててしまいたいと思えないのは、これが少しずつ…でも確実に成長しているから。
もう二度と言ってくれないような珍しい言葉が、記憶の片隅に蓄積された。
【 一度しか言わない 】 高杉 晋助 / 朱の舞姫