072.怒ってるんだから、宥めてみせて

背中にでかでかと『不機嫌』と背負った彼女は、相変わらずそっぽを向いている。
何がそうさせているのかはわかっているけれど、あえて知らん振りの翼。
そんな風にお互いの視線が絡まないように過ごすこと、1時間。
もう我慢ならないと言った様子で振り向いた彼女に、翼が小さく息を吐く。
今回は結構粘ったね、などと考えているが口に出さないのは、火に油を注ぐとわかっているから。

「何で何にも言わないの!」
「…何か言ってほしかったの?」
「不機嫌の理由くらい聞いてくれてもいいじゃない!」

そう言った彼女に、聞くまでもないだろうと思う。
彼女の目の前にその答えが見えているのだから。

「何が気に入らないの」
「何でもわかってるような翼の態度が気に入らない!」
「…わかるんだから、仕方ないだろ」

彼女は表情豊かだし、付き合いも長い。
わかって当然、と言う翼に、彼女はぐっと口を噤んだ。

「…でも、慰めてほしい時もあるじゃない」
「下手に慰めたら怒るくせに」
「そりゃそうだけどさ!放置は酷い!」

どうやら、今回は声をかけるが正解だったらしい。
声をかけたらかけたで別の意味で怒り出したと思うのだが、今の彼女はそれに思い至る状況ではないようだ。
翼は彼女の隣に腰を下ろし、その頭を撫でた。

「わかった。声をかけなくてごめん。話がしたいなら、自分から話してくれると思ってたから」
「…ごめん。ただの八つ当たり」
「うん。八つ当たりしたくなる気持ちはわかるよ」

そういった翼の視線の先にはバラバラになったパズル。
どこかの世界遺産の風景のそれは、昨日は完成まであと数ピースと言うところまで進んでいたはずだ。
パズルが苦手な彼女が、長い時間をかけてこつこつ進めてきた。
恐らくは運んでいる最中に落としたか何かでバラバラにしてしまったのだろう。
彼女がかけた時間を思えば、八つ当たりのひとつも致し方ない。

「続き、頑張りなよ」
「…うん。そうする…」

はぁ、と肩を落とした彼女に、翼は小さく苦笑した。

【 怒ってるんだから、宥めてみせて 】  椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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10.01.12